
年金基金を運用する投資会社ロックミル・キャピタルへ強盗団がいきなり乱入し、40億ポンド(約8000億円)もの大金が盗まれる。
武装した集団強盗犯の被害に遭ったのは、主人公のザラと彼女の親友ルークで、2人は会計事務を担当する一般社員だが、安給料で常にこき使われる為に”バックヤード”と暗に蔑まされている。
この事件を担当するのが主任警部のリースで、彼自身もギャンブル依存症で自身の金銭問題に頭を悩ます毎日だが、事件の裏では大富豪らの利害や国家スパイ組織・MI5の思惑が複雑に交錯し、空前絶後の大規模な強盗犯罪に発展していくのだが・・・
賭け事は期待に賭けた方がうまくいく
犯人らはザラとルークを人質に取り、総額40億ポンド(約8000億円)の超高額な不正取引を強要。その署名と銀行への説得を迫られ、会計責任者のルークは極限状態の中で我を失うが、ザラは冷静に対応し、送金を成立させる。
抵抗した社員は容赦なく暴行され、犯人らは入金を確認するとすぐに逃走。事件の翌日、ザラは自身の暗号資産口座に500万ポンド(約10億円)が振り込まれてるのに気づき、すぐにコールドウォレットへ移して隠す。因みに、コールドウォレットとは仮想通貨の秘密鍵をオフラインで安全に保管する財布の事だ。
つまり、ザラもルークも事件に関与していたのだ。一方で、捜査は難航するが、ザラは共犯者のルークに金の移動を促すも、動揺した彼は自首を考える。捜査陣も内部犯行を疑い、ルークに疑惑の目を向ける中、犯人らは口封じに彼を襲撃。結果、ルークは連れ去られ、ザラはその一部始終を見届ける。
更に、ザラは現場に落ちていた犯人の指紋付き薬瓶を回収し、それを武器に犯人側へ揺さぶりをかける。一方、捜査では資金が防衛関連企業名義の口座に流れた事が判明し、MI5の関与も浮上。ザラは犯人側とMI5の両方から追われる身となり、事態は国家レベルの陰謀へと拡大していく。
追い詰められたザラは、リースに強盗に加担した事実を認め、極秘で協力し合うが、2人が狙う標的は内部犯行の可能性が高い投資委員会で、ザラは社内に潜り込んで極秘資料を入手する。やがて彼女は、資金移動の裏に数字操作があった事を突き止め、黒幕を絞るが、一方で盗まれた金は防衛企業名義の口座から瞬時に消え、MI5の影が色濃くなる。
その頃、借金に追い詰められたリースはザラの金に目を向け始め、2人の関係に亀裂が入るも、ザラはMI5に拉致される。
一方、監禁されたルークだが、犯人グループの1人のモーガンに接触し、受け取った500万ポンドを餌に取引を持ちかける。他方、ザラはMI5から情報提供と引換えに、新しい身分を得て国外脱出を提案される。だが、捜査が進む内に内部協力者は投資委員の1人であるマイロだった事が判明するも、事件には更に上の黒幕がいる可能性が浮上する。
ザラは、自分が最初から“身代わり”として罠にはめられていた事実を知り、MI5との取引で逃亡準備を進めるが、大金の一部を集る母との確執やリースとの決裂が重なり、状況は益々悪化する。一方で、2000万ポンド(約40億円)を貰った事を告白し、全てを精算しようとしたマイロだったが、モーガンはザラとルークと共に彼を訪れる。事の一部始終を白状したマイロは運悪く殺され、モーガンは2000万ポンドを手に入れる為に、2人を脅し、3人でロックミル・キャピタルへと向かう。
そこへモーガンの仲間が現れ、銃撃戦が勃発。裏切りと混乱の中、ザラは単独でモーガンを始末し、事件は無事終息。また、MI5主導で真相は偽造操作され、犯行はマイロの単独犯と発表されるが、真の黒幕は財務捜査官のヨシダだった。実は、金融システムの腐敗を暴く為に、彼がこの事件を仕組んでいたのだ。ザラとリースは彼のテロリストにも近い思想に耳を貸さず、罪逃れにヨシダが提案した1000万ポンド(約20億円)を拒否。
最後にザラは、ヨシダがマイロに払った2000万ポンドを密かに入手してた事をリースに明かし、”まさか君は・・期待の方に賭けたのか?”と驚愕させる。
実は、ザラが警察に差し出したのはルークと共に犯人らから貰う予定だった1000万ポンドの方で、モーガンから奪い取った2000万ポンドは隠しておいたのだ。
”だってポーカーでは、負けを恐れると必ず失敗するんでしょ?”と、ザラがリースにやり返す所で幕を閉じる。
つまり、自身の人生でずっと臆病で負け犬だった彼女が、期待という希望に賭けた事で最後には大きな勝利を得たのだ。
最後に
このドラマの本質は”真の悪は誰なのか?”との疑問が、物語の進行の中で変異する所にある。序盤では、銃で社員を制圧する武装強盗団という誰の目にも見える“表の悪”で、物語が進むにつれ、強盗事件を成立させたのは社内の内部協力者であり、巨額の利益を独占する投資委員会という“裏の悪”だった事も明らかになる。
その後、捜査が国家レベルに及ぶと、MI5による情報操作やスケープゴート(身代り又は生贄)の存在が浮上し、更には真実よりも”都合のいい結末”を優先する“見えない悪”が姿を現す。そして、最終的には金融システムの腐敗を暴く為に事件を仕組んだヨシダという存在に辿り着く。
確かに、彼の行動は思想的には理解できなくもないが、結果的に暴力と犠牲を伴い、正義を破壊する行為でもある。
一方で、主人公のザラは被害者と加害者の境界に立つ曖昧な存在として描かれ、強盗計画に自発的に加担した事も事実で、その意味では明確な加害者でもある。が同時に、組織の中では”使い捨て”要員に過ぎず、責任を負わされた上に疑われ、最後に切り捨てられる立場に置かれてた点では、ザラは被害者とも言える。
終盤に、彼女は2000万ポンドを手にして去るが、これは単に罪と現実から目を背けた逃避劇なのか? ドラマでは明確な答えを示さない。だが、職場でも正当に評価されず、家庭にも居場所を持てなかった彼女が、危険な賭けに救いを求めた事実は、非常に現代的で納得できる所もある。
更に、別視点でいえば、ザラは能力がありながら搾取され続けた労働者の象徴であり、その歪んだ構造が彼女を“共犯者”へと追い込んだとも言える。そういう意味では、事件の真の黒幕であるヨシダとよく似てるし、彼もまた危険な賭けに救いを求めた悲しい男だったのだ。
事実、彼は単に黒幕として片付けられない存在で、彼は盗まれた年金や公的資金を元に戻し、金融システムの不正を白日の下に晒した。その点だけで見れば、彼の思想と行為は内部告発に近い正義の行動にも映る。が同時に、その過程で複数の命が奪われ、崇高な筈の思想の先にある手段は、皮肉にも正義を破壊する行為となる。
つまり、こうした矛盾こそが、このドラマが明確な答えを提示しえなかった本当の理由とも言えるし、ヨシダは自身の理想と理念の為に盗みと暴力を選んだが、それは告発なのか?テロなのか?いやその両方なのか・・・
最後に悲しくて皮肉なのが、彼の暴露により一時的な混乱は起きても、金融の根本構造は何も変わらず、正義を掲げた崇高な理念とそれを破壊する過激な行為ですら、世界を変えられないという現実を見せつけられた事にある。
僅か6話のショートストーリーだが、たとえ答えは出なくても、見る価値は存分にあるドラマだと思う。
結局は、希望に賭けるか?悲運に賭けるか?確率が五分五分ならば、期待という希望に賭けた方がいいのは言うまでもない。だが、数学で言う期待値とは、当たる確率とその儲けを掛けた単なる値である。
たとえ、大まかに外れだと判っていても、希望を掛ければ期待は膨らむ。人生という大方ハズレのギャンブルに期待を賭けるとは、そういう事なのかもしれない。
殆ど全てのギャンブルには不運が取りつく様に、多くの人生にも不幸が纏い付くが、そこに希望を見出すしか人生の選択肢はない。
つまり、ギャンブルに期待を見出せば決まった様に大損するし、人生に希望を見出せばそれが叶う日が来ないとも限らない。即ち、ギャンブルと人生が微妙に違うのは、そういう所なのかもしれない。
補足
ただ、ヨシダを黒幕とした所で、”真の悪は誰か”という主要なテーマの解決には程遠いし、ドラマの本質とも大きくかけ離れてるように思えた。
動かせる金額からすれば、ヨシダは40億ポンドもの大金を動かし、主人公のザラは2000万ポンドがやっとで、ルークは500万ポンドですら動揺したし、ヨシダを黒幕と見抜いたリースですら、僅か10万ポンドの借金に追い詰められ、人生が破綻しつつあった。
それにロックミル・キャピタルを襲撃した強盗グループらは、ヨシダの真の目的を知らされず、2000万ポンドのお金の為に危険な計画を実行に移した。彼らの取り分が実際にどれだけかは判らないが、2000万ポンドが上限だという事だけは明らかだろう。
それに、犠牲者が出たとは言っても、会社の従業員と重役のマイロを除いて、その殆どが強盗グループ同士の銃撃戦に依るもので、ヨシダにとっては想定外でもないし、単に犯人グループのミスによるものだろう。
多分だが、40億ポンドを動かせるヨシダが逮捕される事はありえないし、たとえヤバくなったとしても、富豪やMI5との取引でどうにでもなるだろう。つまり、ヨシダが一番嫌がる”お金の力でどうにでもなる”という事だ。
一方で、2000万ポンドを持って国外に逃亡するザラに人生の保証はあるのか?彼女が2匹目のドジョウを狙い、再び賭けに出ないとも限らない。それに、ギャンブル中毒のリースも小心者のルークも彼女を支えるには役不足に思える。かと言って、ヨシダと対等に張り合える程の知才をザラが備えてるとも思えない。
つまり、「スティール」に続編があるとしても、ザラを含めた3人はヨシダに簡単に潰されるであろうし、そうでなくとも、早かれ遅かれのMI5に潰されるか、投資会社や警察のコマとして働くのが関の山かもしれない。
という事で、余計な考察でした。

