象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

廃墟と化した駅〜真夜中の訪問者”その112”


 夢の舞台は、ある片田舎の電車駅のホームだった。まるで、旧国鉄時代を彷彿させるような典型の田舎駅である。
 砂利で出来た時代遅れのホームには、殆どが地元の中学生たちで溢れかえっていた。というのも、朝と夕方の2本しかダイヤがないのだ。

 私はある女性を待っていた。しかしその女はなかなか姿を見せない。
 そのうち僅かニ両編成の列車がホームに入ってきた。ギリギリまで待っていたが、女は現れなかった。仕方なく私は列車の中に入る。
 女は前の駅から乗ってたのか、列車の中で待っていたらしい。
 ”ごめなさい。言うの忘れてた”
 彼女は申し訳なさそうに、頭を垂れる。
 ”こんな田舎駅は久しぶりだ。うちの近くの駅も古いがここまでは・・・” 
 私は、周りをキョロキョロと見回しながら、昔を思い出した。
 ”ここは昔からこうなの。廃線になってもおかしくはないんだけど、学校があるから出来ないのよね”
 彼女は、田舎の出にしてはとても洗練されててチャーミングだった。決して美人でも可愛くもないが、精悍なまでに着こなした上下黒のOL姿のスーツは、魅惑的に見える程までに似合っていた。


黒いスーツ姿の女

 女は既にテンションが高く、やけに積極的である。
 ”時間はまだ十分にあるわ。楽しい事でもしましょ?”
 ”周りを見ろよ、ジロジロと好気の眼で見てるじゃないか。時と場所は選ぶもんだ”

 女はますます強引に迫ってくる。やがて、発情期のメス猫のように唇と身体を艶かしく近づけてきた。
 私は不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ、この雰囲気を楽しみたい自分が幼く思える。
 ”とても嬉しいんだけど、未成年の教育には悪いんじゃないかな。周りは私達に興味津々のようだ”
 女は大胆にもスカートを巻くし上げ、私の下腹部の上に股を広げた状態で馬乗りになる。
 ”これでどう?子供には追いつけない筈よ”
 
”早朝からこれだから・・・”

 彼女はルージュで彩られた柔らかな唇を強引に押し付ける。まるで採れたばかりの新鮮なサクランボとキスしてるようだ。甘く柔和な香りが口の中全体に広がっていく。
 私はこの状態を維持したかった。ずっとこのままでいたかった。
 やがて女は私の右手を握りしめ、女の股間に引きずりこもうとする。パンストで包まれたベージュ色の肢体は魅惑的というより芸術的でもあった。
 興奮は頂点に達しようとしていた。

 その時、列車がある駅に止まった。列車の中にいた乗客の殆どが降りていく。
 女はチャンスと見たのか、パンストとショーツをまとめて下にずらし、私のイ◯モツを弄り始めるではないか。
 列車は止まったままである。多分ここが終着駅なのだろうか。
 ”ここが終点なのか?”
 ”ええそうよ。夕方まで止まったままで、後は始発駅に帰るだけ。実にシンプルでしょ”
 ”そういう君もそれ以上にシンプルさね”
 ”男も女もヤル事って、とってもシンプルなの。考えてどうなるってもんじゃないわ”
 ”イ◯モツを君の熟した洞窟に放り込んだら、それで終わりって事か”

 女は真剣だった。笑顔一つ浮かべずに、男女の行為に浸った。
 感触は十分だったが、何かが物足りない。
 というのも、私はキスのままで十分だったからだ。彼女の柔らかく上品で高質な真紅の唇に比べれば、アソコは安物の質感のないオナホールみたいで、悦楽や欲情とは程遠く感じた。
 ”キスだけの方が良かった。こんな所でセックスはやりすぎだよ。少なくとも僕には不釣り合いだ”


無人駅にて

 彼女は少し機嫌を悪くしたのか、私から腰を離すと、無言で乱れた着衣を元に戻し、いつものように倦怠感を顕にする。
 ”だったら、いつ本気になってくれるの?このままずっと中途な関係でいいの?”
 ”いつも本気だよ。だからゆっくりと時間をかけて育て上げたいんだ”
 ”あんまりゆっくりしてると、別の男に鞍替えするわよ。女の賞味期限って、あなたが思ってる程に長くはないの”
 ”いや、そういう意味じゃなくて・・・時間をかけて自分という人間を知ってほしいんだ。セックスだけで全てが解り合える筈もない”
 ”キスだけでも駄目だよね。肉体と肉体が融合するって、それだけでも神秘的だとは思わない?”
 ”肉体と精神が融合して初めて男と女は同化するんだ。肉体だけ精神だけの同化なら、同性愛者だって可能だろう。そういうのが嫌なんだ。君に対しては正直でありたいんだ”

 彼女は笑った。
 ”変わった人ね。そういう私もとても正直なんだけど、少なくともあなたの前ではね”
 ”でも、列車の中では正直すぎるのも変だ”

 女は一人立ち上がり、私の手を引いて、列車の外に出ようとする。
 ”列車の中が駄目なら、外で思う存分にヤリましょ?”
 私は彼女に導かれるように、列車の外に出た。
 そこは廃墟と化した大きな駅だった。彼女はその大きな駅のホームを降りて、奥にあるトンネルの中へと姿を消した。
 どこを探しても女は見つからなかった。
 ”今までのは幻想だったのか?いやそんな筈はない。彼女の匂いも香りもアソコの濡れ具合も、しっかりと私の身体に染み付いている”
 私は元いた場所に戻ろうとするも、駅も含め、全てが消え去っていたのだ。
 仕方なく遠くに見える街の方に向かい、途中でタクシーを拾う。
 ”近くに駅はありますか?”
 ”あるけど、結構遠いな。それに個人でやってるから高く付くよ”

 運転手は笑いながら指を何本か立てるが、とても私に払える額ではない。
 私は仕方なく、街の方まで敢えて歩く事にした。
 そこは、どこかで見た事のある様な街だったが、多くの人混みで賑わっていた。
 街の中央には数多くのタクシーが連なっていたが、殆どがそれ以上の多くの乗客で塞がっている。
 それでも、何とか空いてそうなタクシーを見つけ、”近くに駅はないか”と尋ねた。
 ”ある事はあるけど、かなり物騒な所だよ。でもね、このタクシーには先客がいて、それも結構なVIPなご婦人なのよ。悪いけど他を当たってくれないか”


草笛光子サン登場

 私は運転手が指差す方向を眺めていた。
 場所は大方予想がついた。しかし、脚がパンパンに腫れ上がり、歩く気すら起こらない。
 途方に暮れてると、後ろから声がする。
 ”貴方、お急ぎの用事なの?”
 思わず振り返ると、ひと目でVIPと判る様な豪奢な着物をまとった草笛光子さんではないか。
 ”あ、いえ・・急ぎという程でもないんですが、もし行き先が同じ方向なら、相乗りでもと思って・・・いえ、その”
 私は敢えてワザとらしい嘘をついた。
 草笛さんは、そんな私の困惑を既に見抜いていた。
 ”運転手サン、私は後回しでいいから、このお方を目的の地まで送ってちょうだい”

 私は言葉が出なかった。
 正真正銘の本物のセレブを目のあたりにし、只々うろたえるばかりである。
 ”ほら、急いで乗って・・・私もゆっくりとはしてられないのよ”
 私はご婦人の言葉に甘えて、タクシーに乗り込んだ。
 ”お客さんはラッキーだね。料金は彼女持ちだってさ”
 ”あ、いや、それじゃ・・・”
 ”いえいえ、こんな時はご厚意に思い切り甘えましょうよ”

 私は話題を切り替えた。
 ”それで、その駅ってそんなに廃れてんですか?”
 ”何しろ、1日に数本しか走らない駅だからね。殆ど廃墟と同じよ”

 私は驚いた。
 ”いや、私はその廃墟と化した駅から歩いてきた筈なんですが、その駅とは別なのかな”
 ”駅という駅は1つしかないから、アンタ何か勘違いしてるよ”

 事実、タクシーが案内した駅は別モノだった。
 私は運転手に礼を言って、その廃墟と化しそうになってる駅へと向かう。
 その駅は小高い丘の上にあった。その丘は産業廃棄物や家電製品の残骸が積み上がったもので出来ていた。
 駅の向こうは大きな河が流れている。その河にはとても古い橋が渡り、電車はその橋を渡ってやってくるみたいだ。 

 廃墟と化した駅と文明の残骸
 全ては大きな河に呑み込まれていくのだろうか。そして、あの黒いスーツの女は、最後に何を言いたかったのだろうか。
 そうこう思ってる内に、夢から覚めた。


最後に

 人生に終着駅があるとすれば、夢で見たような廃墟と化した無機質で雑風景なものかもしれない。
 一方で、黒いスーツの女は私の甘く危険な欲望なのかもしれない。しかし、草笛光子さんは私にとってどういう存在なんだろう。
 もし、夢に続きがあるのなら、始発駅に戻り、人生をやり直す事が出来るのだろうか。

 ”人生迷ったら初心に戻れ”と言う。
 果たして、そんな事が出来るのだろうか?
 人生は電車みたいに、始発駅と終着駅を延々と往復してはくれない。終着駅についたらそれで全てが終わりである。
 夢の中の私の人生も、終着駅に着いた時点で既に終わってた筈だ。

 だったら、彼女を電車の外に逃さずに、二人でそのまま電車の中で楽しい事をしながら夕方まで時間を潰し、始発駅へと向かえば、終りのない人生を延々と楽しめるのだろうか?
 そう考えると、人生とは何も考えずに楽しんだもんが勝ちなのだろうか。
 いや、そんな人生は退屈すぎて、苦しくとも終わりのある人生の方が有意義なのだろうか。