象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

リーマンの謎3の10〜正則性という制約と解析性という強力なツール

 前回の”3の9の2”で留数定理をマスターした後は、”正則性と解析性”について説明します。
 一見すればどちらも一緒じゃんって思うんですが、これが微妙に違うんですね。 
 特に、(複素)解析についてはリーマンが好んで使ったツールで、実数界と異なりタイトな条件があるが、正則性という厳しい条件をクリアしないと、解析性という強力なツールは使えません。

 ”微分可能を意味する正則性””テイラー展開(収束べき級数)可能を表す解析性”
 この2つが複素関数の世界では一致する事を示し、複素解析の理論を紹介します。
 以下、「複素解析の神秘性」を参考です。前々回”3の9”とダブる所がありますが、復習の意味でもサラッと眺めて下さい。

 まず、べき級数が絶対収束(一様収束)する時、項別積分が可能で、この性質は複素関数でも応用できます。
 領域Dで定義された関数f(z)がD内の点z₀で”べき級数展開可能”とは、z₀の周辺でf(z)=a₀+a₁(z−z₀)+a₂(z−z₀)²+・・・とテイラー展開できる事です。これは各点の周りに収束円が存在する事を示してましたね。
 一方、Dの各点でべき級数展開可能な関数をD上の”解析関数”と言い、べき級数は収束円内で項別微分可能だから”正則”となり、しかも収束円内では何回でも微分可能です。
 故に一般に、複素関数f(z)の点z₀の周りのテイラー展開は、f(z)=f(z₀)+f’(z₀)(z−z₀)+f’’(z₀)(z−z₀)²/2!+f’’’(z₀)(z−z₀)³/3!+・・・、(z∈C)と複素関数を単純な多項式の和で表す事の出来るスグレモノです。


正則性と解析性

 そこで、”領域Dで正則な関数はD内で解析的である”という「正則性=解析性」の定理と、”領域Dで正則な関数f(x)、g(x)がD内の領域D’でf(x)=g(x)なら、Dにても常にf(x)=g(x)”という「一致の定理」の重要な2つの定理を頭に入れときましょう。
 因みに、f(z)が複素平面全体で正則の時、”整関数”と呼び、これは多項式函数を除き最も単純な解析函数で、有限な領域において特異点を持ちません。
 では、正則とはどうやって判定するの?

 ここで簡単な例を上げ、"正則"というものを説明します。
 z=1以外(z=1は極)で定義された関数f(z)=1/(z−1)を考えます。
 z=x+yiとおき、f(z)=1/{(x−1)+yi}={(x−1)+yi}/{(x−1)²+y²}となり、f(z)の実部と虚部は、u(x,y)=(x−1)/{(x−1)²+y²}、v(x,y)=−y/{(x−1)²+y²}。
 また、z=1以外では偏微分可能なので、uₓ=du/dx、uᵧ=du/dy、vₓ=dv/dx、vᵧ=dv/dyとすると、uₓ=vᵧ、uᵧ=−vₓとなり、”コーシー・リーマンの微分方程式”を満たすので、f(z)は正則となる。
  f’(z)=uₓ+vₓiから、{1/(z−1)}’=−1/(z−1)²となり、これは実関数の時と同じですね。
 故に、正則関数f(z)=1/(z−1)は何回でも微分可能で、実関数と同様に計算でき、f⁽ⁿ⁾(z)={1/(z−1)}⁽ⁿ⁾=(−1)ⁿn!/(z−1)ⁿ⁺¹となり、これは以下の数学的帰納法で証明できます。

 そこで、複数の点の周りで先程のテイラー展開をします。
 先ずz=0では、f⁽ⁿ⁾(0)=−n!、(n=0,1,2,,,)より、z=0の周辺では、f(z)=−1−z−z²−z³−・・・となる。べき級数{aₙ}の収束半径rは、1/r=lim[x,∞]|aₙ₊₁|/|aₙ|で表されるので、収束半径は1です。
 同様に、z=2ではf⁽ⁿ⁾(2)=(−1)ⁿn!より、z=2の周辺ではf(z)=−1−(z−2)−(z−2)²−(z−2)³−・・・となり、収束半径は1。
 そこで、複素数z=1+i/2でのテイラー展開ですが。z−1=i/2より、f⁽ⁿ⁾(1+i/2)=(−1)ⁿn!/(i/2)ⁿ⁺¹=2ⁿ⁺¹n!iⁿ⁻¹。故に、z=1+i/2の周辺では、f(z)=−2i−4(z−1−i/2)+8i(z−1−i/2)²−⋯
となり、収束半径は1/2となる。
 図を書けば明らかですが、以上の3つの収束円はどれも極z=1の所で0になります。

 では、正則関数は極では展開できないのか?
 そこで、”3の9”で紹介したローラン展開です。上述した様に、f(z)=1/(z−1)はz=1で極でしたが、(z−1)f(z)=1は正則関数となる。
 これを一般化し、”f(z)がz=αで正則ではないが、(z−α)ⁿf(z)がz=αでも正則関数として拡張でき、z=αで0でない値を取る時、z=αはf(z)のn次の極”と言いましたね。
 判り易く言えば、zがαに限りなく近づく時、f(z)=1/(z−α)はz=αで極(f(α)=∞となり発散)で、f(z)=1/(z−α)ⁿはz=αでn次の極になる。

 この時、(z−α)ⁿf(z)はテイラー展開(=a₀+a₁(z−α)+a₂(z−α)²+・・・)できるので、a₀をa₋ₙとすれば、(z−α)ⁿf(z)=a₋ₙ+a₋ₙ₊₁(z−α)+⋯+a₋₁(z−α)ⁿ⁻¹+a₀(z−α)ⁿ+a₁(z−α)ⁿ⁺¹+⋯。
 故に、f(z)=a₋ₙ/(z−α)ⁿ+⋯+a₋₁/(z−α)+a₀+a₁(z−α)+⋯

 この様な展開をローラン展開と呼びます。一般に、複素関数f(z)の点αの周りのローラン展開(級数aₙ)は、f(z)=Σₙ[−n,n]aₙ(z−α)ⁿで示されます。つまり、テイラー展開の次元を−nまで広げた展開となってますね。
 そこで、”極αでのローラン展開における(z−α)⁻¹の係数a₋₁をf(z)のαでの留数”と呼ぶ。まず1次(位)の極z=αでの留数は、(z−α)f(z)=a₋₁+a₀(z−α)+a₁(z−α)²+・・・から簡単に求められ、zをαに近づければ残るのはa₋₁だけで、これを”留数”(残余、残留物)と呼び、Res(α,f)で表す。つまり、1次(位)の極z=αで留数Res(α,f)=a₋₁を持つ。
 但し、”n次”とは次(元)数nの事で位数nとも言います。つまり、n次とn位は同義ですね。


有理型関数と正則性

 領域D内で”有限個の極以外で正則な関数”を”有理型関数”(以下で述べる有理関数とは異なる事に注意)と呼び、この有理型関数は”極で負べき乗が有限のローラン展開可能で、極以外でテイラー展開可能”となる。
 上述のf(z)=1/(z−1)を例に取ると、f(z)は有理型となり、極はz=1(1次)のみで、z=1での留数は、(z−1)f(z)=1より、z→1で右辺の係数1だけが残るので)1となる。
 また、Re(s)>1で収束するζ(s)=Σₙ[1,∞]1/nˢを例に取ると、ζ(s)−1/(s−1)は正則関数としてRe(s)>0に拡張できるので、ζ(s)=1/(s−1)+正則関数より、ζ(s)はRe(s)>0で有理型で、(s−1)ζ(s)=1+(s−1)(正則関数)より、ζ(s)の1次の極s=1での留数は、(s→1で右辺の1だけが残るので)1となる。

 因みに、ζ(s)=1/(s−1)が正則関数としてRe(s)>0に拡張できるのは、単独ではs=1で定義できないζ(s)と1/(s−1)ですが。
 1/(s−1)をΣₙ[1,∞]∫[n,n+1]dx/xˢ(∵∫[1,∞]dx/xˢ=1/(s−1))とRe(s)>1に対し、無限級数の形に展開すれば、ζ(s)−1/(s−1)=Σₙ[1,∞]∫[n,n+1](1/nˢ−1/xˢ)dxとなり、右辺はD内(有界閉集合)で広義一様収束(∵|∫[n,n+1](1/nˢ−1/xˢ)dx|が収束)するより、Re(s)>0で正則。故に、Re(s)>1で正則な左辺のζ(s)−1/(s−1)と一致する。
 上述した「一致の定理」より、ζ(s)−1/(s−1)もRe(s)>0に拡張できる。

 以上から、”領域Dで正則な関数はD内で解析的”である「正則性=解析性」と、有理型であるゼータ関数の関係について、多少の理解は得られたでしょうか。
 前回”3の9の2”でも述べましたが、(正則でない)極ではテイラー展開できない有理型関数も、負べき乗にローラン展開でき、ローラン展開できれば留数が見つかり、その有理型関数を複素積分した値は、”2πi×留数”になります。
 これこそが、”複素積分を計算する事は留数を求める事”という強力なトリックに成り得る訳です。

 以上を判りやすく言えば、複素関数が微分可能である事は、実関数が微分可能である事よりもずっと条件がキツく、更に正則はそれよりも制約がキツいです。
 しかし、これらのキツい条件を満たす正則関数は、とても都合のいい性質を持ってます。というのは、”正則関数が解析性を持つ”からです。
 ある領域で定義された関数がその関数上の各点での近傍で収束べき級数に展開できる時、その関数は解析的(解析関数)と呼びます。テイラー展開級数も収束べき級数ですね。
 この解析関数は、「一致の定理」「無限回微分可能」という見事なツールをもたらします。
 つまり、正則というものが如何にタイトな制約を持ち、解析というものが如何に強力なツールであるかを教えられた気もします。 


有理関数と有理型関数

 ゼータ関数は有理関数(分母分子が多項式である様な分数関数)に似た性質を持つ”有理型関数”であり、有理関数と同様に、零点と極で殆ど表されます。
 有理型関数が有理関数と異なる点は、零点と極が無限にある事と、有理関数の定数倍を示す定数Cが”零点も極も持たない関数”に変わる事です。
 つまり、複素解析にて有理型関数(関数が有理型)とは、複素数平面上(連結リーマン面)の領域で定義され、その領域内で極以外の特異点(真性特異点)を持たない解析関数の事です。 
 有理型関数は正則関数の商として表せ、その分母となる正則関数の零点は元の有理型関数の極となる。
 故に、有理型関数は真性特異点を持たず、正則でない点も”たかだか極”なのです。

 つまり、リーマンが有理型関数であるゼータ関数に対し、解析接続というツールをふんだんに駆使できたのも、ゼータ関数が”たかだか極”しか持たない安定した有理型関数だったからです。
 以上より、判りづらい説明だったかもですが、解析接続の大まかな概略だけを述べました。
 実は、この記事は省いてもと思ったんですが、有理型関数とゼータ関数と解析接続の繋がりを理解する為に必要だと思い、紹介しました。


補足〜位数と零点(解)

 因みに、f(z₀)=0なるz₀をf(z)の零点(解)と言い、aₙ≠0なる最小のnを零点z₀の位数(order)といい、位数nの事を”n位の零点”といいます。
 また、位数はf(z)が多項式の時は次数(degree)と訳され、n位の零点はn次多項式にてn乗根に相当。つまり、”n位の零点=n次方程式の解”と置き換えれますかね。
 判り易い例として、f(z)=z²−2z+1=(z−1)²は、z=1を零点とし位数は2で、f(z)=sinzの零点z=0の位数は1です。
 一方、零点と対となる言葉に”極”がありますが、lim[z→z₀]|f(z)|=∞となる点z₀を言い、発散する点です。z₀がf(z)の極(pole)の時、z₀が1/f(z)の零点となる為、この零点の位数(次数)をnとおくと、z₀はf(z)の”n位の極”と言います。
 この極と零点と位数という言葉は、リーマンの論文の中でも腐る程出てきますので注意です。