
前回の”Ep6”では、アインシュタインの一般相対性理論の核である重力場の方程式(アインシュタイン方程式)では、水星の近日点移動の観測値を正確に弾き出し、惑星の作用がなくても近日点が移動する事と、”曲がってるのは光ではなく空間である”事を証明した事で、めでたく一般相対性理論が完成した所まで述べました。
それまで、全6話の展開は、”Ep6”(Click)の最初で紹介してます。
そこで今回は、アインシュタイン方程式とリーマン•テンソルについて述べたいと思います。テンソルといっても入りの部分だけですから、神経質にならんでもいいです。
Episode7
私(テンゾー)は尚も続ける。
”博士が辿りついた重力場の方程式は、今ではアインシュタイン方程式と言われますが、どの様な座標系にても理論が形を変えない。
つまり、一般座標系変換に対する不変性を保証し、時空という4次元座標の本質をエレガントに簡潔に記述しました。
この有名な方程式は、以前にも述べましたが、”Rᵤᵥ−gᵤᵥR/2=8πGTᵤᵥ/c⁴”と記述されます(”Ep2”参照)。
これは3つのテンソルからなり、物質場(重力場)の分布を示すエネルギー&運動量テンソル”Tᵤᵥ”により、時空の形状(曲率)を表すリッチテンソル”Rᵤᵥ”が決まれば、計量テンソル”gᵤᵥ”も決まるんです。
因みに、計量とは時空間の尺度(距離)の事で、計量テンソルgᵤᵥは時空の具体的な歪みを示し、アインシュタイン方程式の解となります。
また、右下の添字uとvは時空の4次元座標のラベルで0〜3の整数を取ります。
x=(x₀,x₁,x₂,x₃)でgᵤᵥ(x)と書きますが、通常は(x)を省略します。x₀は時間座標の事でx₀=ct、時間に光速度を掛けた値で、残りのx₁,x₂,x₃は空間成分です。
この座標関数の事を一般的に”場”と呼ぶんです。
では、計量テンソルgᵤᵥ(x)は実際に、どんな構造をしているのでしょうか?
(g₀₀(x),g₀₁(x),g₀₂(x),g₀₃(x))
(g₁₀(x),g₁₁(x),g₁₂(x),g₁₃(x))
(g₂₀(x),g₂₁(x),g₂₂(x),g₂₃(x))
(g₃₀(x),g₃₁(x),g₃₂(x),g₃₃(x))の4×4行列となってんですね。
つまり、16個の関数の組になってるんです。
アインシュタイン方程式の左辺であるアインシュタインテンソルをGᵤᵥ(x)=Rᵤᵥ−gᵤᵥR/2とすると、同じ様に
(G₀₀(x),G₀₁(x),G₀₂(x),G₀₃(x))
(G₁₀(x),G₁₁(x),G₁₂(x),G₁₃(x))
(G₂₀(x),G₂₁(x),G₂₂(x),G₂₃(x))
(G₃₀(x),G₃₁(x),G₃₂(x),G₃₃(x))
エネルギー•運動テンソルTᵤᵥ(x)も、
(T₀₀(x),T₀₁(x),T₀₂(x),T₀₃(x))
(T₁₀(x),T₁₁(x),T₁₂(x),T₁₃(x))
(T₂₀(x),T₂₁(x),T₂₂(x),T₂₃(x))
(T₃₀(x),T₃₁(x),T₃₂(x),T₃₃(x))
リッチテンソルRᵤᵥも、
(R₀₀(x),R₀₁(x),R₀₂(x),R₀₃(x))
(R₁₀(x),R₁₁(x),R₁₂(x),R₁₃(x))
(R₂₀(x),R₂₁(x),R₂₂(x),R₂₃(x))
(R₃₀(x),R₃₁(x),R₃₂(x),R₃₃(x))
同じ様に、16個の関数の組となってるんです。
但し、以上の4つのテンソルは対称行列(uv=vu)ですから、アインシュタインテンソルの16の要素は縮約され、10個の関数の組み合せから出来てるという訳です”
ロマンは、少し微笑みながら言い放つ。
”なーんだ、行列のことか?高校生でも理解できるレヴェルじゃないか”
私も少し微笑んだ。
”そうです。行列はテンソルの一種で2階のテンソルとも言いますね。
でも、行列はテンソルのごく一部で、後でも述べますが、0階のテンソルはスカラー(定数)、1階のテンソルはベクトル(向きと長さ)となるんです。
RᵤᵥとRは少し複雑な構造をしてますが、共にgᵤᵥの反変テンソルgᵘᵛで表せるので、アインシュタイン•テンソルは、計量テンソルで表した式になります。
エネルギー•運動テンソルTᵤᵥも、運動量•エネルギー•質量といった力学的な物理量で構成されるテンソルです。
そこで、アインシュタイン方程式に運動量•エネルギー•質量の分布に従い、Tᵤᵥに入力し、gᵤᵥについて膨大な項からなる2階の偏微分方程式を解けば、重力場”Tᵤᵥ”がつくる時空の歪み(解)が得られます。
テンソルと、口で言うのは容易い事ですが、実際はもっとややこしい解析方法なんです”
ロマンは、私の話を遮った。
”ところでだが、アルバート!君はそんなややこしい計算を、一々手計算でやったのか?”
アルバートは葉巻を横に置き、腹を抱えて笑う。
”バカ言え!そんな事をするバカはどこにもいないぞ!
まともにやったら、1つの方程式に幾つの項が出てくると思ってんだ?
前にテンゾーが言った様に、10個の独立した偏微分方程式が出てくるんじゃぞ!それも2階の微分方程式じゃぞ!
1つの方程式に4800の項が出てくるんじゃ!そんなん、まともにやる奴がどこにおる?今みたいにスーパーコンピュータがある訳でもなぇ〜しの〜”
私は博士の声を遮った。
”ご心配なくロマンさん(笑)。
実際には、人間の手計算で解けるケースは殆どまれで、今ではスーパーコンピューターを使い、数値計算で解くのが普通ですよ”
アインシュタインは、珍しく真顔になった。
”実はのぉ〜親友で数学者のグロスマンの力を借りて、これらの膨大な偏微分方程式を解こうと思った時期もあったんじゃよ。
でものぉ〜すぐに頓挫したさ。当り前じゃろ、オイラーでもガウスでも解けんかったさ。
だからわしはあるトリックを使ったんじゃ。数学ってのはそういうもんよ、そのトリックがエレガントなんだ。
ホントはのぉ〜基本に帰っただけなんじゃがな。そう、それこそがニュートンの方程式じゃよ”
私も、生意気に口を挟む。
”そのアインシュタイン博士のトリックですが、特殊相対性理論の本質は、”全ての慣性系は同等”という事です。
これは慣性系から慣性系への座標変換の事で、「ガリレイ変換」を修正した「ローレンツ変換」により、式の形が変わらない事を意味します。
このローレンツ変換こそが、時空の歪み(伸縮)を考慮に入れた式だったんです。因みに、ガリレイ変換には、時間と空間の尺度の変化が記されてませんでした。
博士が、あえて数学的記述に拘ったのは、このローレンツ変換のお陰でもあったんです。
そこで博士は慣性系だけでなく、重力場という加速度系でも同じ様に、ローレンツ変換により数学的記述が出来ないかと考えたんです。
事実、慣性系の座標の変換式は、単純な1次式です。変換による値の変化が位置や時刻に対して均一である必要があるからです。
つまり、時と場所が変わった位では、物理法則は変わらないんですね”
アインシュタインは、口ひげをなで始めた。
”ローレンツ変換による数学的記述こそが、特殊相対論を拡張した一般相対性原理の核心であり、ローレンツ変換を一般相対性にずらすというトリックを探ったんじゃよ。
勿論、それは重力の事じゃが、その重力の正体はニュートン力学では質量じゃ。
故に重力は使えんから、わしはエネルギーを使ったんじゃが、それも単なるエネルギーではなく、エネルギー運動量テンソルTᵤᵥという幾何学量の値を使い、時空の歪みをテンソルで表現しようとしたんじゃ。
これこそがテンゾーが言う、”重力を規定する量”として数学的に記述出来る事に、わしは気付いたんじゃよ”
ロランは首を傾げながら、アルバートの方を向く。
”トリックというのは、ローレンツ変換による数学的記述の事だけなのか?”
私はロマンの方を向いた。
”博士はその後、ニュートンの重力ポテンシャル(=−GmM/r)の結果と比較し、アインシュタイン方程式の係数k(=8πG/c⁴)を正確に求めたんです。
勿論、歪んだ時空の幾何学(量)をテンソルを介し、2階の偏微分方程式を使って弾き出すという膨大な計算を上手く回避し、一般相対性理論の一番美味しい部分を、あっさりと導き出す辺りは、流石アインシュタイン博士ですね。その洞察には頭が下がります”
アインシュタインは大笑いした。
”しかしそれがのぉ〜、ニュートン力学よりも広範囲(一般的)でずっと正確だというのが皆既日食で実証されたんだから、わしも笑いが止まらんかったの。
つまり、エレガントなトリックとはそういうもんじゃよ👅👅”
私も少し笑ったが、ロマンは一人難しい顔をしていた。
以上、寄せられたコメントを元に、テンソルの部分についは、一部”中高生でもわかる相対性の数理”を参考にしました。