
こんな秀作が2作連続で見れて、AmazonPRIMEと契約してつくづく良かったと思う。
アマプラの”普通に”いい所は、新作や大作や人気作品が自由に見れる訳でもないし、動画の解像度も480pか、よくて720pが限度で、更に少し古い作品やB級モノが大き気もするが、秀作や良作に至ってはかなり層が厚い所にある。
まさに”痒い所に手が届く”感じのストリーミングサービスである。
先日は、「大河への道」で日本地図を作った伊能忠敬とその周辺の物語でひどく感心し、そして昨日は、Winnyを開発した金子勇氏の物語に不思議と酔ってしまった。
ネット史上最大の事件
2002年、⾦⼦勇は簡単にファイルを共有できる⾰新的ソフト”Winny”を開発し、その試⽤版をネット上に公開する。この彗星の如く現れたWinnyは(P2Pとは異なり)、本⼈同⼠が直接データのやりとりができ、瞬く間にシェアを伸ばしていく。が、その裏で⼤量の映画やゲームや⾳楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする者も続出し、次第に社会問題へ発展していった。
因みに、WinnyとはP2P方式といった中央サーバを介さずに、独自形成されたネットワーク内で利用者同士が自由にファイルを共有できるシステムである。
私もマンガ喫茶で何度かP2Pにお世話になった事があるから、この映画は他人事には思えなかった。
以下、「金子勇は何故逮捕された・・」より、大まかに纏めます。
まずWinnyの特徴として、その匿名性の高さが挙げられる。故に、著作権を無視した違法なやり取りやウイルスが蔓延するなど、あらゆる犯罪の温床と化した事で”Winny”は警察の調査対象となり、開発者の金子勇(東出昌⼤)も逮捕されるという異例の事態へと発展。
サイバー犯罪に詳しい弁護⼠・壇俊光(三浦貴⼤)が弁護を引き受け、裁判で逮捕の不当性を主張するも、第⼀審では有罪判決を下され、その後、7年半に渡る裁判の末に無罪を勝ち取った金子勇は、その約2年後に急性心筋梗塞でこの世を去る。
と、ここまで書けば、金子勇の非望の死を巡る感動モノと思われそうだが、松本優作監督の狙いはそこにはない。
弁護側の壇は、仮に刺殺事件が起こった場合”このナイフを作った人を罪に問えるか?っちゅう話や”と発言し、開発者逮捕の不当さを嘆いた。つまり、悪いのは”システムを利用し、著作権違法行為を働いた側”であり、開発者ではない。
では何故、金子勇氏は逮捕に至ったのか?この謎を紐解いてく内に、警察側の闇が次々と暴かれていく。つまり、この作品はWinny事件とと並行し、警察内部の腐敗と汚職を見事に炙り出している。
本来なら、警察は”正義”を掲げ、弱者の味方である筈だ。が何故、金子氏を訴える原告となったのか?
警察側は”著作権団体から相談を受け調査に乗り出した結果、金子氏が著作権法違反の幇助を認めた”と主張するが、その裏には、開発者を逮捕すれば“楽に事を進める”という思惑があった。
警察側は、京都府警の北村(渡辺いっけい)に、誓約書と偽り、金子容疑者に警察側に有利な申述書を書き写させ、”後で幾らでも修正が出来る”などと言いくるめ、金子自身が”蔓延行為を目的とし、Winnyを開発した”様に見せかけた。
”悪の粛清”といった大義名分を背負い、”著作権法違反の幇助”の疑いで逮捕し、社会問題にまで発展したWinny事件。だが、開発者の責任にする事で丸く収めようと、警察は正義を敢えて放棄したのだ。
感動は真実にはなり得ない
そんな中、もう1つの物語が動き始める。
愛媛県警巡査部長の仙波(吉岡秀隆)は、若い巡査が(上司に頼まれ)捜査協力費という名目で領収書を偽造するという汚職に手を染めてる現状に我慢の限界を迎え、県警内で蔓延っていた裏金問題を内部告発する。
仙波は新聞社に情報を提供するも、証拠不十分だとし、メディアに顔を出す決断をする。
金子勇が7年半もの歳月をかけ無罪を勝ち取ったのも、仙波が警察内部の膿を出し切り改めて正義を問うたのも、”より良い未来”を後の人々に残す為だったのだ。
仙波によって暴かれた警察側の悪事は、愛媛県警の裏金問題がWinnyに流出した事が決定打となり、警察内部の腐敗を世間に知らしめた。”Winny事件”と並行し、もう1つの物語を描く事で、観る者を一段深い視点へと落とし込む松本監督の手腕には頭が下がる。
本作は、”Winny事件”発生から逮捕、第一審までを描いた物語だ。事実、金子勇は第二審、最高裁と無罪を勝ち取るが、その場面は敢えて描かれていない。
その理由を松本監督は以下の様に語る。
”まず、7年間の裁判を2時間の映画で描くのは難しい。それ以上に<勝ってよかった>の様な作品にはしたくなかった。
裁判モノは<皆の協力で最後には無罪を勝ち取った>という開放感を観客に与えると、映画として作る意味はなくなる。
確かに、第一審で有罪判決を受けた時、罰金150万円を払ってれば社会的には解決し、金子氏はプラグラムの世界に戻れた。が、彼は大好きなプログラミングを諦めてまで裁判で闘った。そこには、未来の技術者や若い人たちに向けたメッセージがあるのではないか。
金子氏を調べていく過程で、そう感じた”
金子勇という天才プログラマーからは開発の時間を、日本のテクノロジー界からは発展の可能性を奪った現実を”くらまさない”為にも、敢えて感動を省き、この事件の本質を問う作品に仕上げている。
”本作は、開発者の未来と権利を守る為に、権力やメディアと戦った男たちの真実を基にした物語である”
この言葉だけでも、この映画の誠実さが窺える。以上、FILMAGAからでした。
最後に
以上、都香マミ氏のコラムが全てを物語っている。
模範解答すぎて、殆ど付け加える事はないのだが、この作品は確実に感動の上を飛んでいる。だからこそ私は、金子氏の真実に感動した。
もうそれだけで充分だが、多くのドキュメント作品は、史実をひん曲げ、事の順序を変え、安っぽい自己満足的な感動に傾斜する。勿論、賞を獲る為には常套手段だが、それでは真実は伝わらない。
敢えて感動を省く事で、ごまかしや曖昧さが排除され、我々は無垢な視点でこの作品を観る事が可能になる。
勿論、Winnyには著作権侵害という明確なアキレス腱を持つ。一方で、この事件で日本は天才プログラマーが持つ多くの可能性を喪失した。
両者と事実という点では接点を持つが、少なくとも”警察が悪い”いや”Winnyが悪い”という視点では、何も解決しない。
ただ、金子勇氏の不慮の死が多くの損失を生んだとだけは言えるだろう。