象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

「高い城の男」と「沈黙の艦隊」〜ドラマは原作を超えるのか


 アマプラで「沈黙の艦隊」が配信された。
 前々から期待してた漫画(原作、かわぐちかいじ)だっただけに、ドラマ化されたのはとても嬉しいではないか。
 日米政府が極秘に建造した高性能原子力潜水艦”シーバット”に、極秘で乗り込んだ海江田四郎(大沢たかお)はシーバットに核ミサイルを積載し、突如逃亡する。そして、事もあろうに海江田を国家元首とする独立戦闘国家”やまと”を全世界へ宣言したのだ。

 典型の戦争SFものだが、”日米開戦”というリアルがそこには存在する。
 日本人なら誰しもが、心の奥底に(何らかの形で)”原爆投下の仕返しを”と少なからず思ってる事だろう。勿論そうでないにしても、歪んだ日米同盟をめぐる両国の駆け引きは、状況と事情に応じては火蓋を切る可能性がないとも言い切れない。
 今は台湾有事ばかりが話題になってるが、”日米開戦”も今そこにある危機なのかもしれない。

 昨秋に劇場公開され、興行収入13.4億円を記録した映画「沈黙の艦隊」だが、その完全版ともいえる今回のドラマの前半では、未公開シーンを加え、劇場版のストーリーをより多くの登場人物にフォーカスして描く。
 一方で、ドラマの後半では、映画の続きとなるエピソードを展開。海江田率いる独立国家”やまと”、日本政府、アメリカ政府の思惑が交錯する一触即発の交渉劇や重厚な人間ドラマが映し出されると共に、東京湾での壮大なバトルシーンが迫力満点に繰り広げられる(AmazonPrime)。

 確かに、映画にしていい程の質感と臨場感があり、キャストもスタッフも良い意味でその気でいる。お陰で、私も思わず引きずり込まれ、シーズン1の6話までをイッキ見してしまった。
 因みに、第7話と8話は2/16に配信されるが、東京湾に描かれる日米両国のリアルなバトルは全世界も注目するであろうか。
 特に、世界240以上の国や地域に向けて配信されると言うから、大きな反響も期待できそうだ。というのも、6年前のAmazon配信ドラマ「高い城の男」が不発に終わっただけに、私の期待も大きい。
 但し、全くの直立不動で無表情の海江田役の大沢たかおを見てるとこっちまで疲れてくるし、深町役の玉木宏は(どうみても)永谷園のイメージしか湧かなくて、少し笑ってしまった。が、乗組員を道連れに原潜に立てこもり、独立国家を宣言する1人の男の哀愁と郷愁を感じなくもない。


高い城の男

 この「沈黙の艦隊」を見た後で、以前、ドラマ「高い城の男」(全シーズン4・計40話)をアマプラで見た事を、ふと思い出した。
 流石に、このドラマにはリアルが殆どなかった。日本や日系人の役者はとても充実した演技を見せてはくれたが、何せジュリアナ役の主演女優がパッとしない。
 勿論、彼女に全ての責任を押し付ける訳でもないが、脚本自体に明らかに無理があったのも事実である。 

 ”枢軸国が連合国に勝ってたら”の発想自体は凄く大胆で滑稽で面白いが、その奇想天外な発想を支える為に、無理強いしたプロットがすぐに崩れてしまう。典型の不可解で未遂のエンディングに繋がるのは明白でもあった。
 このドラマではやたらと易経が登場する。ルーレット好きなアメリカ人の性向とも思えなくもないが、まるでサイコロ転がしの人生ゲームの様でもある。
 確かに、”出たとこ勝負”で枢軸が勝ち、その後の展開も何だか”出たとこ勝負”。折角日本とドイツが秘密裏に啀み合ってるのだから、列強を巻き込む日独の対立を中心に、長々と展開しても面白かった。

 ただ、枢軸が連合国に勝ち、大国アメリカを支配するなんて、原作自体にも多少の問題はあるが、SF小説として見ても流石に無理がある。
 せめて、この第2次世界大戦を引き分けに持ち込み、日独の対立を中心とする第3次世界大戦に繋げるのが無難だろうし、その方がずっとリアルがあり、スリリングでもある。
 例えばだが、トルーマンが原爆投下直前になって暗殺され、大粛清の呪いに悩むスターリンが謎の死を遂げる。精神異常のヒトラーポーランド侵攻直前に暗殺される。更に日本では、南下政策の責任を取り、東條が失踪し、真珠湾の英雄・山本五十六が政権を握る。
 この様に、我儘勝手な十人十色の展開が期待できるが、パラレルワールド的な展開よりかはマシだろうか。

 但し、ジュリアナという金髪女の存在は必要なのか。彼女が登場する度、無理強いしたプロットに穴が開く。
 ”高い城の男”が幾ら無類の女好きとはいえ、胸の大きく開いたドレスで参上し、陳腐な色気を振りまく。女スパイにしても貧相が過ぎるが、それでもシーズン1まではそこそこ気合が入ってただけに、実に残念ではある。
 一方で、ドイツの極端な飛躍し過ぎる宇宙計画もプロットを混乱させ、破綻させる一因となった。それでも(十分に贔屓目だが)、シーズン1だけを見れば、及第点を挙げられるドラマにも思えたのだが・・・


原作とドラマの乖離

 だがシーズン2から、それぞれが異なる時間軸をもつパラレルワールド的な展開になり、一気に興味が失せた。それでも、チルダン役のブレナン・ブラウンやエド役のDJクオールズらの粘り強い演技で、味気ない展開を支え続ける。
 フィリップ・K・ディックの原作を読んだ事がないので自信を持って言えないが、このドラマの本質は、自分たちの存在する世界こそが実は小説「高い城の男」で描かれる架空の世界であり、小説に書かれている世界の方が本物の現実の世界である事を知る所にある。

 事実「海外ドラマブログ」では、原作とドラマの違いを、以下の様に紹介している。
 まず、第2次世界大戦で枢軸国が勝利するという設定・登場人物は一部同じだが、ストーリーは全く違うといってもいい。それに、”イナゴ身重く横たわる”は映像ではなく小説だ。シーズン1で派手に描かれるレジスタンスも憲兵隊もヤクザも登場しないし、シーズン2以降で主役を張るナチス帝国の親衛隊大将ジョン・スミスや木戸警部も登場しない。
 更に皇太子暗殺未遂事件なども起こらないし、ナチスによる”イヤー・ゼロ計画”や”ニーベンヴェルト計画”も起きない。

 確かに、パラレルワールド(別世界)は触れられるが、終盤に田上(貿易大臣)が垣間見る程度で、行き来する事はないし、勿論”時の旅人”なん出てこない。そもそも歴史が異なる2重世界というより、小説と外の世界といった違いである。
 ドラマでは、ナチスレジスタンスにヤクザや憲兵隊などが抗争し、銃撃戦を入れ、自由の女神像を壊したりと派手に描いている。娯楽性を高める為と思われるが、うまく纏まらないまま終わった感がある。
 一方で、このドラマは家族や人種差別、国家のあり方などを提示しながら別世界との関係が描いてはいる。が原作では、”自分たちの世界が誰かの作った小説の世界だとしたら”という虚構と現実の対称性を描いている。


最後に

 確かに、リドリー・スコット総指揮で描く世界観は流石としか言いようがない。
 しかし、原作を弄くりすぎたが故に、凡作と成り下がったのだ。が、シーズン1(1話と2話)のパイロット版の評価が95%だった事を考えると、3話以降で評価を落とし、シーズン2では監督が降板し、総指揮が匙を投げたという噂は本当だったのだろう。
 確かに見てて、明らかにスタッフやキャストの緊張感とやる気のなさがここまで伝わってきた。
 「沈黙の艦隊」も第一弾の配信(1話~6話)は大成功だった様にも思える。日米両軍の東京湾バトルを描く第二弾(7話8話)も、ド派手に演出すれば成功するだろう。しかし、その後が問題である。
 少なくとも、「高い城の男」みたいな失敗は繰り返さないで欲しい。