
かなり古いネタ記事になるが、予想通りトランプは、”文書なき合意の”裏をつき、追加関税を課してきた。これに対し、赤沢経済財政大臣は米政府に抗議。相互関税の大統領令を修正を約束させた。だが、その修正時期は米国政府が判断するという。赤沢氏によれば、文書なき合意の背景には、”共同文書作成を目指してたら、期限に間に合わず相互関税は25%の上乗せになっていた”と釈明し、今回の米国側のミスは”共同文書がなかった事が原因ではない”との認識を示した。
結局、トランプへの大きな手土産となった”日米間で解釈が異なる”とされる80兆円投資の合意内容だが、その履行状況を見届けながらダラダラと時間を引き伸ばす巧みな戦略に引っ掛かった感もあるが、一方で”合意文書が無い事が逆に有利に働くだろう”との識者の意見もある。だが、後に米国側が修正したとしても、大きなマイナスである事には変わらないようだ。
一方で、EUも合意文書は未発表だったが、肝心な部分は文書化していた。勿論、同じ英語圏だから誤謬(ごびゅう)はないのだろうが、少なくとも日米間で露呈した追加関税の齟齬(そご)は発生しなかった。
私が思うに、トランプがアメリカのアイデンティティ(=らしさ)を突きつけてるのに対し、石破元首相は(日本ではなく)自民党のアイデンティティを持ち出してる様に思える。今に思うと、石破には”らしさ”が欠けてたとも言えるが、新たに首相となった高市氏も同じに思える。言い換えれば、昨今の日本には”らしさ”を全面に押し出す指導者がいない事が致命的にも思える。
因みに、アイデンティティ(自己同一性)とは”自分は自分”という”らしさ”を含む自己認識であり、”自分は何者か”という固有性に対する答えでもあり、他者や社会から認めらたいという感覚(社会的自己)や特定の集団への帰属意識も含まれる。
そこで今日は、各国のアイデンティティの相違と対立について述べたいと思う。
劣った白人と歪んだアイデンティティ
アメリカを含めた西欧諸国は、プーチンのロシアを侵略者と言うが、ソ連崩壊後は東欧圏諸国を次々とNATOに加盟させ、更にはロシアに隣接するウクライナまで加入させようとした。一方で、親露政権を倒したクーデターはアメリカの策謀によるものであり、NATOの東方への拡大は欧米によるロシアへの侵略でしかない。が故に、それに対抗したプーチンがウクライナを侵攻した理由にはなり得る。
事実、ナポレオン(仏)やヒトラー(独)の侵攻により、壊滅寸前にまで陥ったロシアからすれば、西欧に対する怨念やトラウマに近いものがある筈だ。故に、ロシアにもそれなりの言い分は存在する。
確かに、ロシアの歴史を振り返れば、13世紀から15世紀にかけ、現在のロシアを含むルーシ(キエフ大公国)はモンゴル帝国(キプチャク・ハン)の支配下にあり、貢納を強いられ、一定の自治を認める間接支配の下で政治的軍事的に従属させられた。特に、1240年のキエフ陥落はロシアの歴史においても大きな転換期となった。その後、イヴァン3世の時代になり、モスクワ大公国が強大になると、モンゴルの支配から脱却し、旧ソ連後の現在のロシアに至る。
これは、ロシアのアイデンティティ(らしさ)が歪み、西欧から見下されるきっかけを作る歴史上の大きな汚点となった。この”タタールの軛(くびき)”と呼ぶモンゴルの支配は、ロシアにとって大きなトラウマとなり、以降はクリミア戦争(1853)を含め、周辺国からの侵略を極端に恐れる様になり、逆に攻撃的な姿勢を生み出してしまった。
アイデンティティと一口に言っても、それぞれの国の”らしさ”があり、長い歴史の中で様々に変質および変容するが、他国に征服され、壊滅させられたとしても決して消える事はない。
我々日本人も戦争に敗れ、原爆を落とされ、無条件降伏を受け入れ、戦後は日米同盟という事実上の奴隷契約を結んだ。故に、今ではアメリカの属国に成り下がり、”失われた30年”を生きている。つまり、アメリカから見下され続けても、日本の日本人のアイデンティティは存在する。勿論、征服したり侵略する側はそうした”らしさ”をも支配しようとするが、逆に沸々と強く湧き出る時がある。今のウクライナも同様に、キエフ大公国時代の”ウクライナらしさ”が色濃く存在する。
つまり、こうした各国のアイデンティティの衝突が戦争を生むとしたら、国家の数だけ戦争が起きる事になる。
既述した様に、アイデンティティとは個人の”存在証明”や”帰属意識”との意味で使われるが、個人が自己を認識し、所属する集団で生き抜く上で重要な要素だが、愛国心も個人のアイデンティティとして、自国への愛着や忠誠心を指す。勿論、自国を愛し、その繁栄を願う気持ちは大切だが、国家への帰属意識が高くなりすぎると、戦争に繋がり、結果としてアイデンティティの衝突が戦争を生むとも言える。
一方で現代社会は、多様な価値観や文化が共存し、個人のアイデンティティも多様化する。愛国心もまた人それぞれで、その解釈や重要度も様々である。ある人は愛国心を強く抱き、国の為に尽くす事を重視するが、ある人は愛国心よりも個人の自由や人権を重視する。
つまり、アイデンティティや愛国心の多様性や柔軟性こそが国家間の衝突や摩擦をなくし、戦争を回避する決定打となりそうだが、事はそう単純じゃない。
日露の似た様なアイデンティティ
一般的なアイデンティティに対し、個人が自国の特質や役割について持つ意識や考え方を”ナショナル・アイデンティティー”と呼ぶそうだ。確かに、人間には自尊心があるから、自国について肯定的イメージを持つ傾向にある。それが政策に影響し、国際紛争に繋る事もある。トランプやプーチンやネタニヤフを見てると特にそう感じる。つまり、彼らは単にアイデンティティを利用して戦争を吹っかけてるだけだろうか。
そこで、ロシアと日本のナショナル・アイデンティティを考察すると、興味深い事が見えてくる。以下、「国際関係の理解に欠かせない”ナショナル・アイデンティティ”とは」より一部抜粋します。
まずロシア革命は、専制政治に苦しむ民衆の不満や第一次大戦時の食糧難から起こったとされるのが一般的だが、本当は18世紀以来西洋化に努めてきたのに追いつけなかったロシアが社会主義を唱え、西洋を批判する事で劣等感を拭い去り、自尊心を満足させたとの声もある。これこそが図星であり、明治以来の日本もロシアと似た経験をしていたのだ。
つまり、西洋の影響の下で何とか自尊心を守ろうと努力した点では日露は共通するが、対処の仕方が違っていた。
まず伝統的にだが、中国から強い影響を受けてきた日本は、自国を西洋とアジアの両方と比較した上で、”西洋には敵わないが、非西洋ではNo.1になれる”とのアイデンティティを形成していく。それに対して、ロシアに大きな影響を与えたビザンチン帝国は1453年に滅亡し、その結果、近代のロシア人は”西洋vsロシア”という比較の中で”ロシアが優れてる”事を示そうと、20世紀には社会主義の道を選択した。が故に、ロシアと西洋との葛藤と対立は今も続いている。
一方で、ナショナル・アイデンティティ(以下、NIと略す)は国際秩序のあり方とも密接に関係する。国際社会では、強い影響力を持つ国々が自国のアイデンティティを押し広げる形でルールや秩序を作ろうとし、そうした力を持たない国々は既存の国際秩序に順応または反抗する形で自国のアイデンティティを定義する。
そうした対抗関係の中で、国際秩序の形も変わっていくが、ロシアのウクライナ侵攻や米中対立も、国際秩序を巡るこうした綱引きの中で生じた現象であり、我々はNIを理解する必要がある。ただ、技術が発展し、人の移動が活発になれば、NIがなくなり、国境の意味が失われ、戦争がなくなるのでは?との考え方もあったが、現状はそうはならなかった。それは単に、我々が偏狭な考えに囚われてるからなのか?
つまり、国境が存在する事の意味が十分には解明されていない事の証でもある。
最後に〜”米国的信条”と西欧の衰退
「西洋の敗北」でも書いたが、米国にはアイデンティティにも似た国家の理想像と、従来の権威を破壊しようとする”米国的信条”が共存し、その周期的な信条的情熱の高揚が今のアメリカを創り上げた。
この米国的信条こそが、トランプ主義をめぐる政治的豹変の解釈を可能にするのだが、米国のアイデンティティの特殊性が根底にあり,一般にその国のアイデンティティは歴史・文化・言語などの共有を通じて醸成される。だが、米国ではそれが、政治的過程の中で形成される。
この米国のアイデンティティの中核には、米国的信条(American Creed)が存在し、反権威主義的性格を持つ。
一方で、権力者は庶民の権利と自由を脅かす存在であり、が故に、連邦政府は権力を濫用できない様に、注意深く慎重に設計されている。但し、米国的信条”は1つの理想であり、国民が理想とする政治と現実の政治との間には常に落差が存在する。
米国政治の特殊性は、こうしたギャップが米国的信条の反権威主義と結びつき、変化の大きな原動力となったが、イデオロギー(観念や理念)や階級的対立を変化の原動力としてきた欧州とは異なる。故に、米国の歴史は新たな出発と欠陥のある結末、希望と失望、改革と反動の繰り返し、”約束された不調和”の上で成り立つ実験的国家とも言える。
これに対し、米国民は①矛盾の解消を強く求める”道徳的な憤り”②矛盾を無視し現状を是とする”自己満足”③矛盾を認めつつ現状を是とする”偽善”④現状は変わらないと諦める”シニシズム(冷笑主義)”、と4つの反応を示すが、憤りだけが亢進し、多くの大衆を巻き込む事態が”信条的情熱”となる。
その一方で、NATOの定義で言えば、英・米・仏・伊・独の5カ国に日本という”アメリカの属国“を含めた6カ国が広義的な意味での西洋とみなせる。但し、イギリス(名誉革命)とアメリカ(独立宣言)とフランス(フランス革命)は、圧政を自由主義や民主的革命により成立したが、これこそが西洋のアイデンティティの中核をなす。但し、この広義の西洋の中では、イタリアのファシズム、ドイツのナチズム、日本の(大東亜構想での)軍国主義を生んだ3か国は、歴史的に見ても自由主義国とは言えない。
そんな西欧に反発し、対抗心剥き出しのプーチンのロシアだが、旧ソ連スターリンの延長上にあるのではなく、ロシアの政治文化の特殊性を基盤にする。
元々、プロテスタントの論理によって建国したアメリカだが、そのプロテスタンティズムを喪失した事で、西洋における思想的孤立を生んだ。つまり、思想的孤立こそが今の病んだアメリカの現実であり、結果的に富や権力への執着を招く。その後、こうしたプロテスタンティズムの喪失が西洋の衰退と混乱に繋がるのだが、そんな西欧諸国もソ連とロシアの区別が全く判っちゃいない。
現実的に見ても、ロシアの国力はEUよりも大きいし、これは率直に認めるべきである。次に、ロシア(ソ連ではなく)もまた、権威主義的だが民主主義に基づいた国であり、つまりプーチンは、ソ連型の権威主義と全く異なり、ソ連時代の計画経済の失敗から国家が中心的役割を担う(権威主義)が市場経済を尊重し、労働者層に特別の注意を払ってきたのも事実。
だが、片や今の西洋では、大衆を(権力やエリートを敵視する政治的扇動家である)ポピュリスト程度に軽蔑し、扱う傾向にある。
今のアメリカは、国家の分断を引き起こしつつ、僅かな期待を賭けたトランプ政権にも既に大きく裏切られ、その結果としてニヒリズム(=虚無主義)に陥りつつある。
こうしたアメリカを含む西洋のアイデンティティの歪みと衰退が、ロシアのアイデンティティの復活を促すとすれば、これもまた歪んだアイデンティティの変革と言えるのではないか?勿論、これほどの皮肉もないのだが・・