
見終わった感想で言えば、賢くなった猿が人類を支配し、野生化した人類が猿に復讐し、(共存ではなく)再び猿を檻に入れる展開になるのかなと思うと、少し拍子抜けした。
個人的には、ペット化された事で学習能力を身につけて賢くなった猿と、(野生化というより)過去に戦争を繰り返して退化した人類との、同じ類人猿同士の原始的な醜い争いを延々と繰り返して欲しかった気がする。
因みに、映画に登場する猿は(厳密に言えば)エイプ(APE=類人猿)であり、ヒトに近いボノボ、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザルなどの尻尾のない猿を指し、染色体も1%程しか違わない。
但しDNAで言えば、ヒト→チンパンジー・ボノボ→ゴリラ→オランウータン→テナガザルの順に近くなる。また、一般に猿と呼ばれる動物はモンキーと呼ばれ、尻尾を持つ。両者共に、広義の意味では猿には違いないが、モンキーはAPEを除いた猿とも言える。
故に、「猿の惑星」ではなく「類人猿の惑星」と呼ぶべきであろうが、映画に登場する類人猿は文明をも築きあげ、実在する類人猿よりもずっと賢いのである。
結局、人類とは一時は高度な文明を築き、地球上を支配した様な錯覚に陥るが、最後には猿にも劣る生き物に成り下がる。その猿も映画上だが、人類の真似をし、言葉を少し話せただけで賢くなったつもりになり、猿たちの支配を作り上げたと勘違いする。人類は愚かだが、猿たちも負けずに愚かである。その猿に支配される未来の人類はもっと愚かであろう。
つまり、「猿の惑星」とは、核戦争によりヒトがサル以下のレベルにまで退化する架空の物語であり、元々は日本人がそのモデルになったとされるが、今や全人類が悲しいかな”猿”のモデルである。
たかが、猿の惑星されど・・・
因みに、「猿の惑星:創世記」(2011)から「猿の惑星:聖戦記」(2017)までのリブート三部作は、シーザーという言葉を話す猿が主人公で、地球が猿の惑星へと変貌してく過程を描くが、本作「キングダム」(2024)は、このリブート三部作の後の物語で、シーザーの死から300年程が経過した世界が舞台である。時系列で言えば、リブート三部作→キングダム→オリジナル版5部作という流れになる。
故に、結局は元に戻った事になるが、噂では新三部作が予定されてるらしい。再び猿と人類が対峙するのか?それとも、猿と人類が共存するのか?或いは、猿と人類が血を混ぜる事で奇怪で新たな共存共栄の世界が構築されるのか?
正直、リブート三部作を見ても、延々と繰り返される単調増加関数的な国家間の戦争や紛争と同じで、(フィクションではあるが)猿と人類の慢性化した対立にはウンザリだし、人類と共存しようと画策する賢い猿にも、権力を誇示して人類を壊滅させようと企む低能なゴリラも見飽きた。
結局、賢い猿も凶暴なゴリラも檻の中の動物に過ぎないし、進化した所でカラス程には言葉を喋れんだろうし、猫や犬ほどには人に懐く事もないだろう。もっと言えば、人類が劣等な種であるのと同じく、猿もまた人が思う程に優秀な種ではないのかも知れない。
例えば、人類が猿と共に足並みを揃えて絶滅するのであれば、「猿の惑星」はフィクションではなく、現実に起こるべき真実のモデルなのかも知れない。つまり、人類の未来予想図は猿の惑星にその設計図があったのだろうか。
但し本作では、シーザーがかつて口にした”エイプはエイプを殺さない”と言った寛容さや愛や赦しが隠れた希望のテーマとなっている。だが、所詮はキレイ事に過ぎない。
事実、プーチンやトランプやネタニヤフらの低能な独裁者に見られる様に、自国だけが繁栄すればそれだけでいい。他国民の幸せや存在なんかどうでもいい。でなければ、ヒトラーはユダヤ人を惨殺し、旧日本陸軍は南京大虐殺に関わり、アメリカは原爆を落とさんだろう。
つまり、初代シーザーの窓は旧作から希望の象徴として使われてきたが、人類社会では今や完全に歪みきり、ナショナリズムやアイデンティティの分断の話に変質しちまった。それは、猿の惑星でも同じ状況になってしまう。
主な登場人物は、エイプ(言葉を話す猿)たちに村を奪われるも人類世界の再興を密かに策略する人間(少女)のメイ(ノヴァ)と、旧シーザーの本当の教えを継ぐが故郷のイーグル族を追われ、その救出と故郷再建を願うチンパンジーのノア。それにキングダムの拡張を企むエイプの王(猿の王国)であるボノボのプロキシマス(新シーザー)の3人である。だが、当然の如くこの3人は譲歩しない。
一方で、この3人の中に取り込もうとするのが賢いオランウータンのラカで、旧シーザーの寛容さを受け継ぎ、”人間とエイプの共存は可能だ”と説く。だが現実には、”人類は野蛮で劣等な生き物だ”と見下すプロキシマスの方が正しいのかもしれない。だが、このゴリラは鉄拳(暴力)でそれを認識させようとする。
かつて、旧シーザーは人類と仲間(コバ)を赦し譲歩してきた。”追いつめると必ず攻めてくる”からだが、そこには愛や寛容さが根底にある。だが、本作では互いに譲る事なく、旧シーザーが示した様な寛容さは表には出ない。一方、数少ない譲歩として、ノア達は(イーグル族が宝とする)ワシの卵を全て奪う事はない。全て取れば攻めてくるし、絶滅しかねない。つまり、ワシの為でもあり自分たちの為でもある。
だが、プロキシマスやメイには絶対に譲歩しない。故に、メイとノアの間に友情は生まれない。結果として、弱者同士が手を組み権力を排除しただけである。
大して評価も高くない映画を解説する気もなれないが、ここまでのレビューを読んで興味を持った人がいるならば、見て損はない気もする。
ヒトとサルの1%の違い
そこで、今更だが人と猿の違いを考察する事にする。
前述の様に、ヒトとサルの遺伝子は99%同じで、残り1%の差による一番大きな違いは脳の大きさである。一般的には知能は脳の大きさに比例すると考えられ、人間の脳の重さはチンパンジーの約3.5倍にも達する。
この”1%の差”に関し、長年研究が続けられ、近年、ヒトだけに存在する”ARHGAP11B”という遺伝子が発見された。”知恵の実”と呼ばれる遺伝子こそが人類の知能の進化に関わるとされる。つまり、この遺伝子がサルとヒトを分ける鍵であり、サルの受精卵に移植すれば”知能が向上するのでは”と研究されてきた。
以下、「サルがヒトを超える日」より一部抜粋です。
2020年、ドイツと日本の研究グループが”知恵の実”遺伝子をサルの受精卵に移植すると、胎児の段階で脳細胞が増え、脳細胞を生み出す幹細胞も増えた。更に、脳の表面の大脳新皮質の厚みが2倍になり、この時期のサルの胎児にはありえない脳の皺が生まれ始めた。
脳のシワは脳細胞が増えた時に、頭蓋骨の中に収めるための仕組みで、本来よりも早い段階でシワができ始めた。他にも脳のヒト化が進み、この瞬間に地球上で最も人間に近い、新しい生物が生まれかけていた事になる。
ここで研究者は、このサルの胎児を誕生させるか?研究を中断するか?の決断を迫られ、悩んだ結果、実験は中止に・・生まれてくるサルの胎児にどんな変化が起こるかは予測できず、”責任を負える段階にない”との理由だった。つまり、神の領域に一歩踏み込む手前で踏み留まったのだ。
だが世界には、神の領域に踏み込んだのでは・・と囁かれてる国(多分だが中国)がある。目覚ましい発展を遂げるその国は、2019年に”知恵の実”遺伝子とは別の、人間の知能の発達に関わる遺伝子をサルの脳に移植したと発表した。結果、ヒトの遺伝子を11頭のサルに移植し、生き残ったのが5頭で、その5頭に対してテストを行った所、記憶力と認知機能が向上し、頭が良くなったサルを誕生させたのだ。
この発表に、世界各国から倫理的な問題を指摘する声が上がり、事前の予告なく実験を断行した事と、この国が以前にも遺伝子操作ベビーを誕生させた背景もあり、懸念が広がっている。
一方で、日独で公式に発表された論文を元に同じ実験を他の国で行っていたら、どうなってしまうのだろうか?
あくまで仮説に過ぎないが、人間と見た目や知能が同じで、人間とは違う生物が誕生するかもしれない。サル(特にゴリラ)の身体能力が人間より高く、運動能力も人間を上回るから、脳が大きくなれば新たに学習する事で、ヒトと会話をする事も可能になる。
また、研究者によってはヒトと交配させ、新たな種を作ろうとするタブーの領域に踏み込むかもだが、今の人類とは違う、新たな人類が誕生する。20万年前に人類がホモサピエンスという種になったのと同じ様な進化が起こるかもしれない。
そうなれば、ヒトを追い越すサルが出現するかもしれない。映画「猿の惑星」の様に、新たな種として、我々人類の上に君臨する時代がやってくるのかもしれない。
最後に
先に、”猿と人類が血を混ぜる”事で奇怪で新たな共存共栄の世界が構築されるのか?と書いたが、この事が現実になりそうな記事である。
理論上だけでなく、実験上でも遺伝子操作で賢いサルを作り出せる事が判った今、この現実をどう受け止めればいいのだろう。
ひょっとしたら、AIロボットよりも強力で知能の高い新たな生き物が登場するかも知れない。勿論、倫理的にはタブーだが、「猿の惑星」に登場するよりも、ずっと優秀で知能の高い生き物が登場する事も十分に考えられる。
もしそうなった時、我ら人類は何時もの様に、これまでの様に自然に振る舞えるのだろうか?高度に進化したサルに嫉妬し、映画みたいに対立し、戦争を仕掛けあうという事はないのだろうか?
確かに、今のプーチンを見てると、チンパンジーに嫉妬する凶暴な無学のサルと同じで、それは映画「猿の惑星」の中の荒廃した世界よりも酷い世界の様にも思える。
仮に、遺伝子操作で大量に作り出された”賢いサル”が暴走して人類を駆逐し、かつてホモサピエンスが人類を支配した様に、地球という惑星を支配したとしたら、それこそが人類最大の脅威なのかも知れない。