
人との接触を8割減らす事が感染を収める為に必要だーー。
厚生労働省のクラスター対策班の北海道大学社会医学部教授の西浦博さんはそう示してきた。
ところが緊急事態宣言を出す際、安倍首相は、”7割から8割削減を目指し、外出自粛をお願いします”と話し、”接触7~8割削減”を見出しにする報道も見られるし、”6割でも良かった”という誤解も広がっている。
しかし西浦氏は、Twitterでは”8割おじさん”を名乗り、”8割は絶対必要”と強調する。
そこで、何故8割なのか?なぜこの数字が突然出てきたのか?そして、その根拠は何なのか?
以下、”西浦教授が8割に拘る理由”から抜粋&編集です。
8割減の根拠とは?
”欧米の例を参考に導き出すと6割”という言葉もある。これに2割上乗せして8割というのは本当か?
1人当たりが生み出す2次感染者数とは、欧州では平均で2〜3人と言われる。これを”再生産数”と言い、この数が1を割ると流行が収まる計算だ。
2〜3人の感染者を生み出す様な接触のうち、平均50〜67%以上が削減されると、再生産数が1を割るという。2の時は50%以上、3の時は67%以上を削減する必要があると。
しかし、日本政府の接触制限の対策は、強制というより要請だ。
例えば、マスクをつけベンチコートを着た若い女性が”ガールズバーいかがですか?”と声をかける。声を掛けられた人は”ああ開いているんだ”と思う。
その女性は、常連さんにも”今日ちょっと空いてるんだけどぉ〜”と言う。
集中感染が一番が起きてそうな所が閉められない現状を肌で感じたと、西浦氏は漏らす。
どれだけ制限を求めても介入しきれない所がある。医療機関は勿論、続ける必要があるが、性風俗や接客バーなど止められない所がどうしても存在する。
仮に風営法で止めたとしても、性的接触が止まらない所は沢山ある。人の行動に介入するのは、一つの数式の計算だけではカバーできないのだ。
そういう事を加味し、西浦氏は二次感染が起こる再生産数をもっと詳しく検討した。
医療従事者同士で感染が起こる確率、医療従事者から他の業界の人に感染が起きる確率、風俗や夜の歓楽街での接触で感染が起こる確率など、職業別の感染指数を調べるイメージですね。
これは大雑把に2割上乗せではなく、細かい計算の上での事で、正確に積み上げた数値だ。
本当は、もう少し詳しい再生産数のデータを作る。医療と性風俗には残念ながら介入ができないと仮定し、一般の人口でそれを補填し、二次感染の平均値を1より下げるにはどれぐらい必要か?そして”79%”という数字が弾き出された。
これを”伝播の異質性”という。つまり、人は社会で同じ様には振る舞わない。一般企業の人も個々人で同じ仕事をしていても、友達の多さや交流の活発度や属性が違うからだ。
これら属性の違いを加味したデータを作り、その基本再生産数が2.5になるように計算し、8割となった。翻って言うと、制御できない業界を除く接触が8割未満だと流行の制御は難しい。
故に、この”8割削減”は折れてはいけない数字なのだ。
”8割削減”に対する政府の反発
なのに、なぜ安倍首相は緊急事態宣言時の会見で、”7〜8割減少”という曖昧な?数字が出てきたのか?
政府レベルで、今回の新型コロナの感染リスクが高く認識されてないからだ。
西浦氏が8割という数字を出した時、明確に”8割はできる訳ない”と言った政治家(二階堂幹事長)がいた。政府の立場上、国の経済を止める訳にはいかないし、接触の削減で割を食う業界を支える必要があるからだろう。
一方、科学者がこういう具体的な数字を提示するのは、純粋な危機感からだ。社会活動を制限する事で受ける損失を遥かに超えるからだ。
”8割が理論的には正しいので、それを目標として下さい”と伝えるのは簡単な事じゃない。政府レベルでは、”6割はだめか?それでダメなら7割ではどうか?”と値切ってくる。
”8割だったら人の動きが止まる”という事を踏まえれば、当然の意見とも言える。
しかし、科学の立場からすれば、8割でないとダメで、7割でも二次感染は減少するかもだが、達成までは凄く時間がかかる。
80%だったら診断されていない人も含めて感染者が100人減るまでに15日間、それに感染から発病•診断など目に見えるまでの時間が15日加わり、1か月間だという。
それが、もし65%だったら感染者の数が減るまでに90日かかる。90日+15日で105日かかる。つまり、時間との闘いなんですな。
なのに、なぜ7〜8割になったのか?
”基本再生産数が2.5として、医療機関や性風俗の事を考えると、80%減でないと2週間で減らない”というシミュレーションの資料を作ってたが、西浦氏の知らない所でこの資料の数値が書き換えられていたのだ。
つまり、基本再生産数の2.5が2.0に書き換えられ、政治家の判断で、”少なくとも7割、できれば8割”という最終の数値が出てきたのも、そうしたせめぎ合いの結果だった。
だったら、6割でもいいのか?
政府がゴールを8割に設定したのは評価してます。数理モデルの数値が政策として通る事は、今までの感染症対策の歴史上はなかった事だからです。
しかし、お陰で様々な噂や非難が殺到した。”これは元々アンタらが作ったデータではない”とか、”8割と言っておいて、今更7割でいいとは?だったら6割でもいいのか”
パンデミック時のコミュニケーションは難しく、数値の話はメディアにデータを正確に提示すれば、おかしな方向に進む筈はないんだが。それでもメディアやTVのコメンテーターは、様々な異なる報道の仕方をする。
しかし今言える事は、感染のリスクの高い所を徹底的に洗い出し、人の出入りを止める事は相当の効果があるという事だ。
都心部では感染経路不明のケースが急増してるが、経路がわかってる所の殆どは病院かデイケア施設だ。特に高齢者の多いデイケアの感染者は一気に重症化する。
それ以外では、夜の繁華街などに集積した感染者が殆どだ。一方で、コロナ対策などのため職場での勤務が続く公務員も危険である。
今や、集団感染が外国人から病院や夜の街に移り、一般市民にまで少しずつ忍び寄ってる。
夜の街で遊んだ上司がいる会社員というような形で、一般にも広がり始めてる事も無視できない。
でもまだ、一般に感染が広がってるとは言い切れないと、西浦氏は語る。
夜のクラスター感染の驚異とは?
なぜ、追跡できない感染者がこれだけ沢山いるのに、一般に広がっていないと言えるのか?
もしも一般市民で流行拡大をしていると、そこから派生した中高年か高齢者の感染者のうち比較的重症になる方が出る筈です。
そういう方が”孤発例”から出ないかどうかを毎日注視し、孤発例の属性を詳しく分析する必要がある。
しかし、その属性を分析する上で見つかったのが”夜のクラスター感染の驚異”だ。
1日180人を超える感染が起きても、孤発例のうちの相当の割合が夜の街で、一般での拡大を強く示唆するものだが。そこからオフィス感染がポツポツという程度で済んでいる。
この”ポツポツ”が目に見える割合になった時が、コミュニティに感染が広がったという段階だが、まだそこまで至っていないと。
小池都知事が”感染爆発•重大局面”と記者会見した後の週末に東京では雪が降り、凄く寒くて皆が出歩くのを控えた。その時の人出が8割減ぐらい。
あの時の東京はゴーストタウンの様になりました。平日もあれに準じるぐらいに、社会機能維持の為に働きに出る人ぐらいに抑えれば、流行は止めらると。
しかし、国民の自発的な行動に任せれば、現状は厳しいとも語る。結局、真の意味で危機感が浸透していないからだ。
以上、BuzzFeedNewsからでした。
最後に〜数式は信用できるのか?
”8割おじさん”こと、西浦博さんの意見には説得力もあるが、抽象的で不明な部分もないではない。しかし、数学的データを使い、感染拡大を止めようとする、感染学史上初のコンセプトは大いに評価したい。
一方で、ある教授は”僅か1%でも行動を変えない人がいるとその効果は大きく損なわれる”と指摘する。
西浦氏が主張する”8割削減”の背景にあるモデルは”Kermack and McKendrickのSIRモデル”とほぼ同じだが、基本的にはこのモデルを使ってるにも拘らず、どう対策をする必要があ るか?については、様々な専門家で意見に幅がある。
代表的なものとして、前述した西浦氏の”8割削減”モデルと、大橋順東大教授による”ほぼ全ての発症者が行動量を45%に下げたとしても、1%でも行動を変えない人がいるとその効果は大きく損なわれる”というモデル。
3つ目は、佐藤彰洋横浜市大教授による”東京では現在の2%まで接触削減が必要”という極端な根拠のモデル。
西浦氏の主張の根拠は、純粋に前述のSIRモデルから来てる。
一方で、大橋氏の主張はSIRモデルにウイルスの潜伏期を加味したモデルだ。45%減という緩い設定も、行動の自粛というより人との”接触の自粛”に重点を置いてるからだ。
佐藤氏の主張は、大橋氏のモデルに潜伏期の遅延を微分要素ではなく2週間とし、感染者の回復期を100日と過大限定したが故に、2%という極端な数字が出た。
勿論、SIRモデルの信用が前提となる訳だが、8割削減と言っても具体的にどれだけ自粛すればいいのか?不明な点は多々あるし、逆に大橋氏の様に、外出したとしても人との接触を避ければ、最悪は避けられるという主張の方が日本人には受け入れ易い様な気もする。
結局、これは西浦氏も語ってる事だが、外出を自粛したとしても、密閉された狭い部屋の中で大勢と接触すれば、感染の確率は高くなる。
この様に、比較的単純な数式により弾き出された数字がそのまま現実に当てはまる筈もないが、数式によって爆発的感染を予測し、危機感を高める事は可能だ。
そして、その予測の精度が上がる程に我々は冷静さを取り戻す。”8割削減”が正しいかどうかは誰にも分からない。
しかし、この”8割削減”の意図と真相を探る事は出来る。つまり、思考を止めた時、我ら大衆は悪に変異するのだから。
補足〜SIRモデルとは?
S+I+R=N(全人口)、
dI/dt=βSI−γI、dR/dt=γI、の3式で表せます。
β(感染が広がる係数=1人が1日にうつす人数をNで割った数)、γ(回復する速さ係数=回復期間の逆数)
つまり、感染者の”属性”をある程度無視した単純なモデルです。患者の回復期やウイルスの潜伏期、感染者の伝染率の違いなども無視したシンプルなモデルです。
しかし、単純化したモデルの方が、今回の様な極端な爆発的感染においては本質が得られるとの利点もあります。PDFではもっと単純な線形的なモデルとして説明されてますね。
詳しく知りたい方は、”3.11以降の科学リテラシーNo.89”でDL出来ます。
わかりやすく言えば、基本再生産数{I(現在感染者数)/R(回復者数)}を1に近づけたい訳で、その為には外出を控え、感染者を減らしましょうとの事です。
この様に単純なモデルが故に、様々な専門家の間で議論が交されてる様です。
実際にグラフで見れば、感染者の累計は指数対数的に増加しますが、新規増加数は乱高下を小刻みに繰り返しながら、やや緩やかな指数関数的に増加してます。
単純モデルの限界もありますが、結構当ってるのは驚きです。数字と数式はウソをつかないというのは、ある程度当ってますね。
以上、paulさんのコメントを補足しました。