象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

三振は本塁打のコスト〜現役最強スラッガー中村剛也の華麗なるフルスイング


 「フィールド・オブ・ドリームズ」(1989)という映画を見た。伝説の大打者ジョー・ジャクソンがバットを軽く一振りすると、バットとボールが擦れ合い、渇いた音を奏で、トウモロコシ畑の中に吸い込まれていく。その焦げ臭い香りがここまで漂ってきそうだった。
 あの頃のボールは石みたいに硬かった様にも思えた。事実、私は子供の頃に一度だけ硬球を投げた事があったが、こんな石みたいに硬くて重い球を野球選手は自在に扱うんだなと尊敬と驚愕の眼差しで、野球中継を見る様になったもんだ。
 それが昨今のMLBのボールは、硬球というより軟球、いやゴムボールの如くピンポンみたいに簡単に飛ぶ。まるで、ラケットで打ったテニスボールの様な感触すら覚える。

 最近のメジャーの試合を見てると、ボールがよく飛ぶというより、よく跳ねるといった感じで、外野手は捕れると思って追いかける打球が中段近くに突き刺さる。まるで、本塁打は飛ぶボールのお陰”であるかの様だ。
 私がメジャーに熱狂した80年代には考えられない事だった。”飛ぶボール”に関しては度々テーマにしたが、MLBの使用球は時代と共に飛ぶ様になった事も事実で、ステロイドや禁止薬物に端を発した本塁打革命と共に、昨今の”飛び過ぎるボール”はまさに異常である。ここまでボールが飛べば、それは野球とは言えない。少なくとも子供の頃に頭の中で描いた野球ではない。


本塁打にコスト(三振)は必要か?

 一方で、現代野球には”三振は本塁打のコスト”という表現がある。
 つまり、本塁打を打ちたけりゃ、三振のコストを恐れず、強く振れって事だ。
 この背景には、現代野球で本塁打を打つ為には、技術よりも力の重要性が高まってきた事が挙げられる。だが、その高く付きすぎたコストは三振の数ではなく、2000年前後に始まったステロイドによる本塁打競争でもあった。
 皮肉な事だが、禁止薬物によるパワーに頼る打撃のお陰で三振が減り、一部で打撃の質が向上したのも事実ではある。だが、イチローの様に非力な打者でも確実で的確な打撃は三振を減らし、打率や出塁率を効率よく向上させる。
 要は、三振と本塁打のバランスが重要であり、そのバランスを巧く取りながら本塁打の量産に繋げるバッターが好打者とも言える。勿論、三振の多い強打者がヘボという訳でもない。

 但し、三振の多い打者はパワーのロスも多く、疲労とストレスが溜まるし、打撃のバランスも崩し易い。一方、投手も三振を多く取ろうとすれば、打者をフルスイングさせる必要があり、余計な力が入る事で肘や肩の負担は大きくなる。つまり、三振は打者も投手も、そのコスト対効果は悪いと言える。
 しかし、必ずしも三振自体が悪い訳ではなく、事実、長いキャリアの中で沢山の本塁打を打ってきた選手は、三振の数も必然的に多くなるし、三振という本塁打のコストも増える。
 勿論、一部例外もあるが、これは以下でも述べる事にする。

 因みに、中村剛也(西武)が2023年4月に、NPB史上初の通算2000三振を喫したが、これも偉業と言える。三振なんて3回振れば誰でも出来ると思われそうだが、2000もの三振を喫しても”使われ続ける”には理由と意味がある。
 現時点で、NPB打者の通算三振数5傑を”本塁打のコスト”で見ると、①中村剛也4.45(2142三振/481本塁打)②清原和博3.72(1955三振/525本)③谷繁元信8.02(1838三振/229本)④山崎武司4.25(1715三振/403本)⑤秋山幸二3.92(1712三振/437本)となる。
 これは、(以下に述べるが)大谷のMLB通算(実働7年)が3.96だから、30年近く正捕手だった谷繁を除き、極端に高い数字でもない。


三振は長打のメリット〜中村剛也のケース

 一方、通算1000三振以上を記録した打者は75人いるが、1試合の三振数5傑は、R.ブライアント1.53(1186三振/773試合/259HR)、中村剛也1.004(2142/2133/481)、T.ローズ0.99(1655/1674/464)、A.カブレラ0.92(1143/1239/357)、T岡田0.88(1172/1339/204)となり、本塁打のコスト(三振数)で言えば、ブライアント4.58、中村4.34、ローズ3.57、カブレラ3.2、岡田5,74となる。但し、中村の通算481HRは全体の10位で現役ではダントツの1位(2位は中田で全体で41位)だ。

 またこの頃は、ブライアントの様に大型扇風機と揶揄される外国の強打者が多かったが、”三振は本塁打のコスト”の典型の時代でもあったのだろう。
 因みに、シーズン三振記録5傑も”本塁打のコスト”で言えば、①R.ブライアント(近鉄)4.86(204三振/42本塁打)②R.ブライアント6.83(198三振/29本)③R.ブライアント2.71(187三振/49本)④村上宗隆(ヤ)5.11(184三振/36本⑤村上5.45(180三振/33本)となるが、ブライアントの49本の時を除き、実証された形となる。
 但し、ブライアントの通算コストは実働8年で4.58(1186三振/259本)で、村上はまだ6年で4.07(913/224)だから、この傾向は以降も続くだろう。
 
 但し、昭和の偉大なる強打者と比べると三振が多いは事実で、NPBの通算本塁打4傑を、これも本塁打のコストで見ると、①王貞治1.52(1319三振/868HR)、②野村克也2.25(1478/657)、③門田博光2.68(1520/567)、④山本浩二2.09(1123/536)で、昨今の強打者の約半分以下である。
 という事は、当時の打者は今より打撃の精度が高く、今の打者はただ”下手な鉄砲も・・”でバットを振り回してるだけなのか?
 いや、それは正確ではない。実は、この半世紀でプロ野球は大きく変貌している。
 今から50年程前、王貞治が最初の三冠王を獲得した1973年のセパ両リーグは780試合で7380個の三振を記録し、1試合に9.46個だったが、2022年は858試合で12509個の三振で1試合で14.58個に急増した。
 半世紀前の投手は速球主体で三振を奪い、球の遅い投手は奪三振が少ない傾向にあった。だが昨今は、フォーク(スプリット)・スライダー(スィーパー)・チェンジアップ・2シーム・シンカー・カットボールなど、空振りを奪える多彩な変化球が飛躍的に増え、今や変化球の見本市状態にある。
 勿論それだけ、投手の肘や肩に大きな負担がかかり、先発完投は夢の時代になりつつある。つまり、肩肘の故障は奪三振のコストとも言える。

 一方で本塁打数は、1973年は780試合で1444本で1試合1.85本。2022年は858試合で1304本で1試合1.52本と減っている。また、昭和の時代の球場は両翼90mにも満たなく中堅110mが標準で、今は両翼100m中堅120mが普通だ。球場が大型化し、フェンスも高くなれば、当然ながら本塁打数は減少する。
 つまり、投球技術が向上し、多彩な変化球で三振を奪う投手が増え、更に球場が広くなる中で、中村剛也など現代の強打者は”三振を恐れずにバットを振る”事を選択するほか、強打者として生き残る道はないとも言える。
 

メジャーではどうなのか?

 150年近い長い歴史を持ち、試合数もNPBの143試合よりも多いMLB(162試合)でも2000三振は7人しかいない。そのTOP7を上げると、①R.ジャクソン2597三振/2820試合/563本塁打、②J.トーミ2548/2543/612、③A.ダン2379/2001/462、④S.ソーサ2306/2354/609、⑤A.ロドリゲス2287/2784/696、⑥M.カブレラ2042/2714/507、⑦A.ガララーガ2003/2257/399となる。
 これも本塁打のコストで見れば、ジャクソン4.61、トーミ4.16、ダン5.15、ソーサ3.79、Aロッド3.29、カブレラ4.03、ガララーガ5.02となる。ソーサとAロッドはステロイド疑惑があるとは言え、3点台のコスト(三振数)は流石とも言える。

 因みに、アメリカで”打撃王”と言えばベーブルースだが、2503試合で1330の三振で714本塁打を記録し、1試合の三振は0.53で、本塁打のコストは1.86となる。
 また、そのルースの記録を抜いた755本のMLB記録保持者だったハンクアーロンだが、本塁打のコストは1.83(1383三振/755本)と、ルースとほぼ同じで、クロスグリップで本塁打を量産した彼もルースと並ぶ偉大な伝説の強打者と言える。
 勿論、当時のMLBNPBのレヴェルの違いはあるものの、”世界の王”さんの1.52(1319三振/868HR)が如何に凄い数字であったかも理解出来よう。
 更に言えば、日米ともに昔は今よりも三振の数が明らかに少なかったし、特にMLBは球場が今よりも広く、ボールが飛ばない分、投打の力関係も違っていたとも言える。
 つまり、データは正しく公正に考察すればウソをつかないし、偉大な選手を測る指標にもなる。

 一方、禁止薬物疑惑で殿堂入りに待ったが掛かるバリーボンズだが、シーズンHR記録73本(2001年)と通算HR762本のMLBの記録保持者である。それぞれ本塁打のコストで言えば、1.27(93三振/73本)と2.02(1539三振/762本)となり、彼もまた偉大なる不世出の強打者と言える。
 ただ、それ以前はM.マクガイヤが70本(1998)のMLB記録を持ち、翌年も65本を量産し、(S.ソーサと共に)MLB初の2年連続60本以上を達成したが、本塁打のコストは2.21(155三振/70本)と2.02(1539三振/65本)で、ボンズの1.27には及ばない。通算のコストでも2.74(1596三振/583本)と、同じ禁止薬物使用ながら格の違いを見せつけた形になる。

 但し薬物使用で言えば、マクガイヤと派手にHR競争を演じ、MLB史上初の3度の60本以上を記録したS.ソーサの通算のコストが3.79(2306三振/609本)だった事を考えると、1点以上の開きがあるから、この2人にも格の違いがあった事を教えてくれる。
 また、ボンズ、マクガイヤ、ソーサの3人とも薬物使用がなかったら、資質で見れば2年連続56本のK.グリフィに匹敵すると推測できるが、彼の通算のコストは2.82(1779三振/630本)だから、ステロイドが”本塁打のコスト”に与える影響は少なくない。

 一方で時系列を今に戻すと、メジャーを代表するジャッジ(NYY)と大谷(LA)という2人の強打者が突出してるが、彼らの本塁打のコストを見てみよう。
 先ずは、大谷のMLBの実働7年のコストだが、3.96(982三振/247HR)で、”三振が本塁打のコストの時代にある”事が判る。
 更に、その経緯を見ると、2018年の4.6から6.1→7.14→4,11→4.73→3.25→3.0→2.95(25年6/2現在)と徐々に減り、昨年からDH専門になり、負担が大きく減った事で、そのコストは3点台前半に収束しつつある。
 事実、今の大谷は打者としての本来の真価を覚醒しようとしている。

 また、ジャッジの方も実働8年で、その通算のコストは3.76(1264三振/336HR)と大谷よりも低いが、経緯を見ると、MLB2年目で52本を放った2017年の4(208三振/52本)から5.6→5.2→3.55→4.05→2.82→3.51→2.95→2.62(6/2現在)と、30歳を過ぎて打率も向上し、熟成の域に到達しつつある事が判る。
 時代は違えど、王さんも30歳を超えて、それまで1点台だった本塁打のコストが0点台に下がり、歳を重ねる毎に効率よく本塁打を量産した経緯がある。つまり、熟成とはそういう事を言うのだろう。


プロ野球で、21世紀最高の現役強打者は・・

 中村剛也のキャリアで、最もな評価と絶賛に値するのが2011年の本塁打王である。
 この年、NPBは反発の低い”統一球”を導入し、両リーグの本塁打数は2010年の1605本から939本に激減。そんななか、中村はパリーグ本塁打数454本の1割以上に当たる48本を量産して本塁打王に輝いた。これはロッテのチーム本塁打46本を上回り、ボールが飛ぶ飛ばないに関係なく、平然と打球を外野スタンドに運んた。因みに、この年のパリーグ2位は松田(ソ)25本、3位バルディリス(オ)、中田翔(日)18本だったし、セリーグの1位は日本記録の60本塁打を持つバレンティン(ヤ)の31本だから、如何に傑出した数字だったかが理解できる。

 そこで、21世紀以降の本塁打数10傑を並べてみた。
中村剛也481本/1365打点/2133試合
阿部慎之助406本/1285打点/2282試合
③A.ラミレス380本/1272打点/1744試合
村田修一360本/1123打点/1953試合
⑤A.カブレラ357本/949打点/1239試合
⑥T.ローズ328本/810打点/1009試合
小笠原道大321本/968打点/1607試合
和田一浩315本/1044打点/1840試合
⑨W.バレンティン301本/794打点/1104試合
松田宣浩301本/991打点/1918試合
 となるが、実働21年で現役の中村剛也本塁打と打点の2部門でトップ。まさに”21世紀の最強”の現役打者と呼べるだろう。
 一方、本塁打のコストで言えば、中村の4.54三振を筆頭に、阿部3.22、ラミレス3.31、村田4.06、カブレラ3.2、ローズ3.57、バレンティン3.26となる。
 現役最強という点では、実働10年の山川穂高(ソ)も有力ではあったが、SEXスキャンダルがなければ、中村と並ぶ最強伝説になったかもしれない。因みに、実働10年/261本/979試合/941三振で本塁打のコストは3.6と、来日した外国の強打者とほぼ遜色はなく、惜しい事ではある。

 中村選手に話を戻すが、過去には6度の本塁打王、4度の打点王に輝いた偉大な強打者だが、勝負強さも傑出している。事実、三振数だけでなく、満塁本塁打の数も22本で通算1位で、2位は王さんの15本(3位は中村紀洋の14本)だから、その凄さが体感できる。
 勝負強さの理由として、三振を恐れない覚悟が満塁の場面でもフルスイングで結果を残す。故に、勝負強さと三振数は連動して積み上がる。40歳を超えたここ数年は年齢による衰えも見られ、出場機会こそ減ってはいるが、彼の存在はチームだけでなく、プロ野球界にも大きな影響を与え続けている。
 事実、3度の3冠王に輝き、監督としても4度のリーグ優勝(1度の日本一)に導いた落合博満氏も中村選手を本塁打の軌道が美しい。理にかなった打ち方で、上から綺麗にボールを叩いてる”と高く評価する。
 確かに、175cm102kgの冷蔵庫みたいな体系を自ら”動けるデブ”と称するスピードや柔軟性が高い身体能力を生み出し、好機でも柔らかいフルスイングで効率よく本塁打を量産する。プロ野球史上9人目の通算500本まであと19本・・十分に射程圏内にある。


最後に〜三冠王列伝

 因みに落合氏だが、実働20年/510本/2236試合/1135三振で、本塁打のコストは2.22と、王さんの1.52には少し劣るが、昭和の偉大なる強打者らと比較しても殆どが勝っている。また、2度目の三冠王(.367/52本/146打点)に輝いた85年は、得点圏打率.451でNPB最高を記録し、これは王さん(.395、74年)やバース(.392、86年)をも遥かに凌ぐ。
 更に、出塁率でも王さんの.532(74年)に次ぐ.481(翌年は.489)で、手がつけられない程の大打者だった事が伺える。OPS(長打率+出塁率)でも、1.255(85年)と1.232(86年)と、日本歴代4位と6位を記録し、長距離砲としてみても世界の王と匹敵する。

 一方、落合氏と同時期に2年連続で3冠王に輝いたR.バース(阪神)だが、本塁打のコストは実働6年で1.67(337三振/202本)と王さんに迫る。更にOPSでも、1.258(86年)と王さんの1.293(74年)に次ぐ堂々の2位で、これまた世紀の大偉業と言える。
 また、2年連続三冠王との視点で言えば、王さんの.355/51本/114打点(73年)と.332/49本/107打点(74年)、バースの.350/54本/134打点(85年)と.384/47本/109打点(86年)、落合の.367/52本/146打点(85年)と.360/50本/116打点(86年)と、数字的にはほぼ同じである。
 OPSでも、王さんの1.255(3位)と1.293(1位)、バースの1.146と1.258(2位)、落合の1.255(4位)と1.232(6位)となり、長距離砲としてもほぼ互角な事が判る。通算OPSでも王さんの1.08をトップに、バースの1.078と続き、落合の.987と、これまたほぼ互角だ。 

 因みに、バースや落合と同年代に活躍したブーマー(阪急)だが、外国人として初の3冠王を84年に獲得(.355/37本/130打点)し、実働10年で僅かに1.20(333三振/277本)と、昭和のよき時代とは言え、これまた驚異的でもある。 

 という事で、今回は長距離砲に焦点を当て、”三振は本塁打のコスト”というテーマで、中村剛也の史上初2000三振は勲章だの記事(NumberWeb)をベースに、現代と過去の偉大な強打者たちをNPB(日本野球機構)やMLBのデータから検証&考察しました。
 この様に、角度を変えて選手のデータを追いかけると、色んなものが見えてくるから不思議です。